マルハニチロホールディングス傘下のアクリフーズ群馬工場(4月にマルハニチロに統合)が製造した冷凍食品に農薬マラチオンを混入したとして、今年1月、同社の元契約社員、阿部利樹被告(49)が逮捕・起訴された。
その阿部被告から小社に獄中体験の本を出したいとの手紙が届いた。そこで本誌記者は阿部被告に約60分に及ぶ面会を行なった。
阿部被告は、工場のあった界隈では「正義おじさん」として有名だった。漫画『ONE PIECE』のコスプレで、後ろに「正義」と大きく書かれたコートを羽織った姿が各所で目撃されていたのだ。群馬県太田市在住の女子中学生はいう。
「去年の11月ぐらいに先輩とかからイオンに正義おじさんが出没するっていうのがLINEに書き込まれていて、それで『正義おじさん』って有名になったんですよ。私も会いたいと思ってイオンで遊んでいたら現われて、写真取らせてくださいって頼んだら『いいよー』っていってくれて。
さわると御利益あるっていうから海軍コートにさわったんです。『ありがとうございます』ってお礼いって、おじさんは『おー』って返事してくれた」
阿部被告が「正義おじさん」として地元の有名人になるのは、事件を起こし発覚するまでの間だった。彼にその話を振ると、珍しくうれしそうな表情になった。
「(『ONE PIECE』に登場する)海軍のコートを着て歩くのが趣味だったもんで。海軍の黄猿というキャラが、信念で生きている、横道にぶれていない感じがして好きなんです」
──あなたが思う「正義」とは?
「やっぱり世の中の悪をなくしたいですよね。世の中を平和にしたい。といいながら私、こんなことやっちゃったからまずいですよね。私がやったことも一応、悪なんですけど」
──どういう「悪」?
「お客様のところまで商品が回っちゃったことです」
──どうなることを考えていたのか?
「工場内のラインでわかると思っていました」
阿部被告は、工場内の検査で混入が判明し、ラインが止まると予想していたという。その手口は、香水を入れる小瓶に農薬を入れ、作業着の袖口や靴下、ポケットに隠して持ち込み、ライン間を行き来して噴霧するというものだった。
──ライン間の移動は誰でもできる環境だった?
「はい」
──異物の持ち込みは簡単だった?
「楽にできますよ、はい」
事件に直接関わる内容のため、立ち会った警官に「ここまで」と止められた。
当時、工場ではボディチェックが行なわれていなかった。彼はその状況であっさりと農薬を持ち込み、冷凍食品に噴霧した。だが、彼の予想に反し、工場内で発覚することのないまま、消費者が口にして、2800人超の被害者を出した。
※週刊ポスト2014年4月18日号