「(福島第一原発は)コントロールされている」――安倍晋三首相が全世界に向けて宣言してから半年以上経ったが、今も高濃度汚染水の漏洩が続いている。政府は再稼働に向けて大きく舵を切ろうとしているが、廃炉作業はまだ始まったばかり。
必死の作業が続く現場では今、作業員の確保、安全への意識の低下など、深刻な問題が起きていた。今回は特別編として、福島第一原発内部の取材をしたジャーナリスト・藤吉雅春氏が、その知られざる実情をリポートする。
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確かに想像以上に厄介な仕事である。昼食をとるたびに重装備の防護服、手袋、靴下を脱ぎ、被曝線量を計測する長い列に並ばなければならない。また、昼食といっても、敷地内では温かい食事をとることはできないため、東電は敷地外に給食センターを建設する予定だ。しかし、食事を変えたところで人が増えるとは思えない。
そして今、実は作業員の確保に大きな矛盾が生じている。2月、初歩的なミスが増えたため、東電とメーカー各社の間で協議が行われた。
「誰でもいいから作業員の頭数だけを揃えるという考えをやめよう」と決まり、作業員はすべて下請け会社の正社員に限定。社会保険に入っていることが作業員の必要条件となった。
これが現場に異変を起こした。ベテラン技術者は深刻な表情でこう言う。
「震災前に福島第一原発に働きに来ていた熟練の作業員たちの姿がほとんど消えました。彼らは全国の原発を渡り歩く“原発ジプシー”など、日雇いで日給をもらうフリーの作業員です。しかし、新しい規則で会社の正社員にならなければならなくなると、社会保険などが天引きされるので、これまでの日給より手取りの賃金が安くなる。
そこで彼らは原発の仕事を捨てて、政府が行っている帰宅困難地区の除染作業に仕事を変えたのです。これは危険手当が1日1万5000円出る。賃金と合わせると1日約2万円になるので、原発より地域の除染のほうが割がいいのです」
かつて全作業員の5分の1は、こうしたフリーの技術者集団だった。彼らが消え、未経験者ばかりが増えていく。
「今後、廃炉に向けて技術を必要とする仕事が増えていく。だから、熟練の作業員がいなくなるのは、非常に頭が痛いんです」(前出・ベテラン技術者)
誰もやりたがらない危険な原発作業は、今まで非正規雇用で成り立っていた。しかし、3つの原子炉が同時にメルトダウンするという世界初の惨事を経験したのに、これまで頼りにしてきた熟練たちが減っている。このことは、廃炉までのロードマップを根底から揺るがす問題だ。
ロボットを使った遠隔操作の研究が進められているが、実現化されたとしても、人間による作業がなくなるわけではない。
「初歩的なミスが起きるたびに、作業がストップして、手間が増える。結局、先に作業が進まないんです」
ベテラン技術者の言葉を聞けば聞くほど、原発の現場が深刻な状態にあることを思い知らされるのだ。
※女性セブン2014年4月17日号