「天下り」というと、キャリア官僚ばかりが注目されがちだが、地方の役人の天下りも目に余るものがある。東京都の過去1年間の課長級以上の再就職データ(2013年11月公表)を見ると、計160人のうち公益団体等39人、監理団体32人、報告団体等16人と、いわゆる外郭団体で過半数を占める。どのように天下り規制を進めていけば良いのか? 「政策工房」社長の原英史氏が解説する。
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東京都はじめ他の自治体でも独自条例により天下り規制を導入していけばよい。その際に十分気を付けないといけないのは名ばかりの規制ではなく、実効性ある規制にすることだ。一例をあげると、よく陥る罠として「天下りの押し付け(役所が再就職先にOBを無理やり押し付けること)だけを規制すればよい」という議論がある。
これをやると、規制が意味をなさなくなる。国も自治体も、役所の公式見解としては「天下りの押し付けなどやっていない。あくまで受け入れ先から『こんな優秀な方にぜひ来ていただきたい』という要請があった」という建前だからだ。かつて第一次安倍内閣で天下り規制を導入した際にも、それが問題となった。
当初、安倍総理は「押し付け的天下りを禁止」という方針を示していた。そうした文言になったのは、規制導入に抵抗する官僚機構の策謀によるものだったのだろう。当時の政府の公式見解によれば「押し付け的天下り」は存在しない。つまり、「禁止」といっても「これまでも存在しなかったことを禁止する」というだけだ。
この時は筆者も行革担当大臣補佐官として関与していたが、政府内での激しい議論を経て最終的に、「押し付け的天下り」だけでなく、役所があっせんして行なう再就職全般を規制することになった。名ばかり規制にしてしまおうとの策謀を何とか突破したのだ。
ところが、である。今年1月の衆議院本会議での安倍総理答弁を見て、筆者は愕然とした。野党議員から天下り問題への対応を問われ、「国家公務員の再就職については、……再就職の押し付け等の不適切な行為を厳格に規制し、天下りを根絶してまいります」と答弁しているではないか。
こうした国会答弁のペーパーは総理ではなく役人が書いている。答弁の中に自分たちに都合のいい文言をこっそり入れ込み、既成事実化するのは霞が関官僚の常套手段だ。その罠に安倍総理もかかり、再び名ばかり規制路線に戻ってしまうのだろうか。国でも地方でも、天下りはじめ、役人の権益に斬り込むことはかくも難しい。
※SAPIO2014年4月号