今年1月、マルハニチロホールディングス傘下のアクリフーズ群馬工場(4月にマルハニチロに統合)が製造した冷凍食品に農薬マラチオンを混入し、逮捕・起訴された同社の元契約社員、阿部利樹被告(49)。
この事件により、ピザやコロッケなどの冷凍食品640万個が回収され、消費者からの問い合わせは100万件、健康被害を訴えたのは2800人超に上る。
前代未聞の「食品テロ事件」を起こした阿部被告から小社に獄中体験の本を出したいとの手紙が届いたのは、3月のことだった。そこで本誌記者は阿部被告に約60分に及ぶ面会を行なった。
阿部被告は記者の顔を見ても表情は変えず、いつもうつむき気味に話す。記者が質問すると眉間をいじるような仕草をしながら話すのが印象的だった。
──なぜ本を出したいのか。
「会社の被害総額が10何億円ぐらいかかるっていう話だったんで」
──誰からそう聞いたのか。
「弁護士からも聞いたし、事件の際も会社に行ってたんでね。あんなことになると、『検品作業が多くて、これから会社潰れるぞ』って人が多かったんですよ。そんな話が出ていたんで、どうするか、と思ってね」
──それで不安になって逃げ出した?
「マスコミは逃亡って書いたんですけど、僕的には家出に近かったんですよ」
まるで他人事のようにいう。工場は現在に至るまで再開の目途が立っておらず、3月末までに従業員約250人のうち66人が退職、41人が処遇未定の状況に追い込まれている(群馬労働局の発表)。会社の損失額は45億円にも上るが、阿部被告が賠償すべき額がどれだけになるかは現時点では定かでない。
「弁護士との話では、僕がおカネないのは知っているから会社が損害賠償を請求してくるとは思えないというんですが、裁判したらおカネかかりますからね。弁済の話にはまだなっていないけれど、私的には責任はあるんで、社会に出た後で記者会見してきちっとやっていこうと思っているんですよ。マラチオン男として」
※週刊ポスト2014年4月18日号