保育園は不足し、ベビーシッターに関する法整備も充分とはいえない日本の社会。子供を育てるのもそう簡単ではないが、それ以前にそもそも、産みづらいという現状もある。
昨年は、女性の妊娠には年齢の限界があることを周知し、若いうちの出産を奨励する『女性手帳』の配布論議や、不妊治療の助成費を年齢で打ち切る論議が「国が女性に子供を産むよう強制している」と猛反発を招いた。そこまでやらないと少子化対策は難しいのだろうか。少子化対策と子育て支援を担当する内閣官房参与の吉村泰典慶應大学名誉教授は言う。
「マスコミに主旨が理解されないまま、一方的に報道されてしまったのですが、女性が50才になっても妊娠できるんじゃないかと思っているなど、あまりにも教育ができていない現状を変えたかったんです。国が妊娠を強制するわけにはいきませんから、日本産科婦人科学会で、男女両方に渡せる冊子を作ろうと思っています」
吉村さんがいまだ日本が「産めない社会」だと感じるのは、中絶の多さからだ。
「今、中絶件数は年間20万件ですが、そこには、経済的な理由や結婚していない等の理由から、やむをえず中絶されている人も多いように感じています。例えば、シングルマザーでも、社会が子供を育てていくという考え方をしていれば、子供を産んでくださると思うんです」
特に、今求められているように、働きながらだとなおさらだ。吉村さんが続ける。
「日本の少子化の要因は、女性のキャリア形成に伴う女性の社会進出です。それが未婚化、晩婚化、晩産化につながっていくんですが、なぜそうなるかというと、女性が働きながら妊娠、出産、育児ができないから。インフラも制度も全く整っていない。社会にも企業にも、そういう意識がないんです」
そのことは、専業主婦やパートの主婦よりも、バリバリ働く女性の人生を直撃している。これからは女性の時代、女性も働いて一人前。そう言われそう信じて、仕事に一生懸命で、結婚や子供を後回しにしてきた女性たちは、今になって、若くして子供を作らなかったことを社会から責められている。慌てて不妊治療に通っても、自業自得という目を向けられる。
労働経済ジャーナリストで『ルポ産ませない社会』(河出書房新社)の著者・小林美希さんはこう指摘する。
「もし妊娠すれば、女性は事実上の解雇に遭ったり、つわりがひどくても残業を強いられるマタニティハラスメントが横行している実態があります。無理をして働いて、流産してしまう人も少なくありません。安倍政権は労働者派遣法を改正して、さらに非正規雇用を増やそうとしています。結局それは、安い賃金で人を使おうということ。働く側にとっては不安が広がるばかりで、安心して妊娠や出産ができる環境にはありません」
※女性セブン2014年4月17日号