国土交通省が「ベビーカーマーク」を公表し、電車やバスのなかでベビーカーを折り畳まなくてもよいとしたことに、一部から反発の声があがっている。ネットでは時々「ベビーカー論争」が巻き起こる。
そもそも近年、ここまでベビーカーが邪魔者扱いされるようになったのはなぜか。「ベビーカー論争」に詳しい、詩人で社会学者の水無田気流氏が指摘する。
「2006年にバリアフリー新法が施行され、駅構内のエレベーター設置などベビーカー利用者の目線に立った環境整備が進んだ。この頃からこうした理念と、通勤客が思う“邪魔”、“母親のマナー違反”という感情が対立し、かなりの温度差を生んできました」
論争が表面化したのは2012年、東京都と鉄道各社がベビーカー利用者への配慮を求めるキャンペーンを開始したこと。「マナーの悪い奴らを増長させるな」との苦情が殺到し、一気にベビーカー論争が過熱するきっかけとなった。
こうしたベビーカー利用者と一般乗客の温度差の原因は、「世代間のずれ」と水無田氏は分析する。
「主に抱っこをしていたり、ベビーカーを畳んで乗車して育児した世代は、その体験を基準に邪魔だと感じる。専業主婦世帯が主流だった世代には、現在のような共働き世帯が多数派になり、ベビーカーで外出せざるを得ない現状が、理解しにくいんです」
昨今は晩婚・晩産化の影響で、第1子と2子3子の年齢差が少なくなっている。幼子の手を引いて妊婦健診に通う女性も増加し、ベビーカーは必需品になった。
さらに旧来細身であった日本製のものに比べ、「大型」の輸入ベビーカーの増加も、邪魔だという感情に拍車をかけている。輸入ベビーカーは石畳が多い欧米基準であることや、男性の使い勝手も重要視されているために大型であることが多い。確かに安定感があるために、子供の安全性を考えて購入者が増え、現在では市場の2割を占めている。
そこへ「待機児童問題」が追い討ちをかける。近隣に子供を預けられない夫婦は、民間託児施設に通うため、仕方なく巨大なベビーカーとともに、混雑した電車に乗るしかない。
「待機児童や凄まじい通勤通学ラッシュなど、都市構造の問題を母親のマナーの問題だけに収れんするのは困難です。一見マナーが悪いと見える母親も、24時間逃れられない母親業に疲弊しきっているだけかもしれません。都市の構造的問題を解消しつつ、感情のもつれは相互の理解を深めて、解決していく必要があると思います」(水無田氏)
※週刊ポスト2014年4月18日号