ウクライナ情勢を報じる日本の大メディアはクリミアを編入したプーチン露大統領を批判するばかりだが、鵜呑みにすると状況を見誤る。単に対露強硬姿勢を取るのでなく、プーチン氏の論理を知った上で同氏の「次の一手」を見通さなければならない。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が指摘する。
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日本は両国の諍(いさか)いに深入りする必要はない。ウクライナ新政権の中には、反ユダヤ主義、ウクライナ民族至上主義を掲げる政治エリートが少なからずいる。この人たちは、反ロシアという政治的観点から親欧米の立場を取っているに過ぎない。人権、自由、民主主義などの価値観を米国、EU(欧州連合)、日本などと共有しているわけではない。ロシアが毒蛇ならば、ウクライナは毒サソリのようなものだ。
ただし、ロシアによるクリミア編入を認めずに弾劾するのは、北方領土交渉を考慮に入れた場合、当然の反応だ。北方領土交渉が妥結して四島の返還が実現し、択捉島とウルップ島の間に国境線が確定したとする。それから数年後、北方領土のロシア系住民が住民投票でロシアへの編入を求めたとする。その場合に、ロシアが今回のクリミアの事態を先例として、軍隊を派遣して北方領土を奪取する可能性があるならば、そもそも北方領土交渉を行なう意味がなくなるからだ。
日本としては、北方領土に日本人を定住させる政策をすぐに策定して、実現する必要がある。そのためにはロシアを非難するだけでなく、北方領土で共同経済活動を行なう枠組みの策定を探らなければならない。安倍晋三首相とプーチン大統領の政治決断が必要だ。
3月24日、オランダのハーグでG8(日米英仏独伊加露)からロシアを除いたG7の首脳は、6月にベルギーのブリュッセルでG7首脳会合を開催するとし、同月、ロシアのソチで予定されていたG8サミット(主要国首脳会議)をボイコットすることを決定した。現時点で、G7が団結してロシアに「国際社会のゲームのルールを一方的に変更してはならない」という強いメッセージを送る必要はある。
ただし、それが行き過ぎると、ロシアがG8に見切りをつけて中国に接近する可能性がある。中露の本格的な戦略的提携が実現すると、中国が尖閣諸島を力によって奪取するシナリオが高まる。ロシアを中国に接近させないことが日本外交の戦略的課題だ。
※SAPIO2014年5月号