近年、韓国の大気汚染は再び深刻さを増し、市民生活に影響を及ぼし始めている。ソウル市によると、今冬(2013年11月~2014年2月)にPM10(直径10マイクロメートル以下の粒子状物質。1マイクロメートルは1000分の1ミリ)の濃度が100マイクログラム/立方メートル(WHO指針値の倍)を超えた日は計18日間。この10年で最多となった。
政府の対策は後手後手で、韓国環境部は国内のPM10濃度の測定値をこの2月に公開し始めたばかり。より深刻な健康被害を及ぼすとされる直径2.5マイクロメートル以下のPM2.5に至ってはソウル市内など一部を除いてまだ観測網すら整備されておらず、市民はその濃度を知ることができない。観測網については160以上の都市で常時観測している中国に後れをとっている。
日本ではPM2.5が1日平均70マイクログラム/立方メートルを超えると予想された場合、各自治体から注意喚起情報が出される。韓国でそうした体制が整うのは2015年頃になりそうだ。
日本と同様、韓国の大気汚染の原因に、工場が密集する中国東北部や砂漠化が進むモンゴルからの飛来物質があることは間違いない。そうしたことから『朝鮮日報』は「大気汚染の被害について中国を相手に国際訴訟を起こすべきではないか」という声があることを伝えている(3月3日付)。
しかし、大気汚染を「中国のせい」とする韓国内の風潮に、予防医学が専門で亜洲大学(京畿道水原市)教授の張栽然氏は異議を唱えている。環境問題に関するシンポジウムの席での発言だ。
「国内で観測されるスモッグの30~50%はたしかに中国など周辺諸国から入ったものですが、ソウル市で発生したのは21~27%、仁川・京畿道などで発生したのも25~26%にのぼります。韓国の大気汚染を『中国発』と表現するのは過剰な責任転嫁で、大気汚染の改善と国民の健康の保護に悪影響を与えかねません」
その韓国で発生した汚染は日本にも及ぶのだから、そもそも“自分だけが被害者”というこの国特有の論法は、環境汚染では通用しない。
※SAPIO2014年5月号