1967年に『文五捕物絵図』で主演して以来、『遠山の金さん』や『大江戸捜査網』など、悪を懲らしめるヒーローを多く演じてきた杉良太郎だが、悪党をどう死なせるかよりも、どうやって死ぬかにこだわってきたという。死の美学を追求してきたという杉が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。
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テレビ時代劇でのヒーロー役のイメージが強い杉良太郎だが、NHK大河ドラマ『武田信玄』での北条氏康役や『徳川慶喜』での井伊直弼役などでは印象的な死に様を見せてきた。また、主演舞台でも悲劇的な結末を迎えることは少なくない。
「今度はどうやって死んでやろうかって、ずっと考えているんです。死の美学というのを追求してね。人間は誕生する時には意思はないけど、死は自分の手によってできる。ですから、この役はどう斬られ死んでいったのか、苦しかったのか、痛かったのか、どんな想いでいたのか、追求するんですよ。
私は狂気の世界に入りたかった。例えば大阪の新歌舞伎座で徳川家康の息子である信康の芝居をやった時は、切腹する場面で緞帳が下りるんですが、千秋楽に本当に腹を切りたくなった。お客さんの目に焼き付けて本当に死んでやりたい、と一週間くらい考えたんです。
それで、小道具に豚の臓物を買いに行かせて、ラップで巻いて血もたっぷり入れてくれって指示しました。それをお腹に巻いて、その上からさらしを巻いて、白装束を着て舞台に立ったんです。そこに本物の短刀を突き刺したら血が噴き出て、客席がシーンとなり、短刀を右へ斬ったら、腹から豚の腸が一気に出てくる。そして私が倒れたところで緞帳が下りたもんですから、会場はパニックですよ。
気持ち悪いとか、そういうことじゃない。杉なら本当にやるだろうとみんな思ったんです」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年5月2日号