4月下旬のオバマ大統領来日を前に、TPP妥結に向け日米間交渉が活発だ。これまでも農業は自由貿易を論じる際に、必ず議論の争点にされてきた。そして、日本の農業を守るために関税は必要だとの主張がまかり通ってきた。TPPを本格導入すると日本の農業は壊滅するのか。
政府が昨年3月に発表したTPPによる関税撤廃の影響は、「農産物の生産額が約2.7兆円減少する」というもの。中でもコメは国内生産量の約3割(270万トン)が輸入米に取って代わられるという。
この試算を「デタラメ」と断じるのは、『日本の農業を破壊したのは誰か』(講談社刊)の著者でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏だ。
「農水省は米国産中粒種をモデルに輸入米の価格を60キログラム当たり7020円で試算していますが、実際にカリフォルニアから輸入しているコメの価格は8310円(2012年)です。現実より安く設定して影響を大きく印象づけています。しかも国内の価格は減反で高く維持されているので、減反をやめれば同程度に値下がりして影響はなくなります」
農水省には前科がある。2010年の試算ではTPPによってコメの生産額が1兆9700億円減少するとしたが、それは日本のすべてのコメ生産額1兆8497億円(2011年。農家の自家消費も含む)を上回るという、ありえないものだった。
すでに多くの農産物はほぼ自由競争のなかで生き残っている。『TPPで日本は世界一の農業大国になる』(ベストセラーズ刊)の著者で農業ジャーナリストの浅川芳裕氏が指摘する。
「農業生産額の3割を占める野菜の関税は多くの品目で3%、生花は関税ゼロ。果物の関税は5~15%程度です。関税が低くても補助金はほとんどなく、国内の農家が創意工夫して競争力を高めています。過去、牛肉・オレンジの自由化で『畜産農家が壊滅して日本産ミカンがなくなる』と危惧されたが全くの杞憂に終わった」
スーパーに行けば、関税で守られていない国産農作物の充実ぶりは一目瞭然だ。
※SAPIO2014年5月号