悲惨な大事故となった韓国のセウォル号沈没事故。被災者の家族らが激しく号泣する様には深く同情するばかりである。一方で、気丈に振る舞うことが美徳とされる日本との文化的相違を感じた人も多いのではないか。
韓国人はなぜここまで感情をあらわにするのか。宗教と社会の関わりを研究してきた東工大名誉教授の橋爪大三郎氏はこう分析する。
「一番の要因は『儒教』の影響でしょう。韓国は儒教国家です。日本も儒教の国といわれているが、生活習慣としての儒教までは入ってきておらず、知識としての儒教にとどまっている。しかし、韓国では『五経』まで生活に浸透している」
「五経」とは何かというと、儒教で基本経典とされる詩経、書経、礼経、易経、春秋経の総称である。五経では生活の隅々まで行動様式が規定され、たとえば、「朝起きたら、まずお湯を沸かし、金ダライに入れ、親を『ご機嫌いかがですか』と起こし、顔を洗う」といったことまで規定されている。
「今回の事故に限らず、家族や親族全員が遺体にすがりついて大きな声をあげて泣き叫ぶ姿を見ると、日本人は驚きますが、たとえば親が死んだ場合も、五経などでは、どれだけ泣かなければいけないかフォーマットが定められている。
泣くことで親に対する借りを返す『孝』の意味がある。韓国人の感情表現は、日本人からは過剰に見えるかもしれないが、実はどういうときに、どのような感情表現をするかについても儒教で決められているのです。
一方の日本人にはそういった規定がないので、親が亡くなっても個々人が自分の気持ちに従って悲しむだけ。そういう違いがある」(橋爪氏)
※週刊ポスト2014年5月9・16日号