死者・行方不明者300人を超える大惨事となった韓国のセウォル号沈没事故では、政府や警察の不手際が目立ったが、最大の責任はやはり旅客船の運航会社にある。しかし、家族らは政府や海洋警察に対して、激しい怒りをぶつけていた。東工大名誉教授の橋爪大三郎氏は、儒教の影響がここにはあると指摘する。
「日本では、『地震・カミナリ・火事・おやじ』というように、自然災害には抗えないという意識が強いため、闇雲に政府の責任を追及するような風土はない。しかし、昔から中国では自然災害が起きるのは悪政が原因とされてきた。儒教の世界では、人々に降りかかる禍は天に見放された政府の責任なんです。
そして人々が政府の責任を問う際に泣きわめくのは、ある種の戦略でもある。たとえば、息子が行方不明になって亡くなっている可能性がある場合に、母親が強く抗議するのは当然。抗議のアピール力を強めるために、単に『許さない』というのではなく、泣いて見せる。泣く方がインパクトがあるから、そのように振る舞う。儒教は政治的なものでもあるのです。
もともと強い血族意識のある韓国で、息子が亡くなった場合に、親族が泣きわめき、強く抗議するのは当然で、むしろそれが世界標準なのです」
日本と同様に例外的なのが、米英系のアングロサクソンだ。狩猟民族である彼らは、一族や大家族ではなく小家族の単位、すなわち核家族で生活するケースが多く、比較的、血族意識が薄い。また、プロテスタントの場合、人は死んでも復活し、すべては神の意思だから、親や子供が死んでも泣いてはいけないと説く。
日本人は米英が世界標準だと考えがちだが、実は米英や日本人のほうが、グローバルスタンダードからはずれているのだ。
※週刊ポスト2014年5月9・16日号