建築家・安藤忠雄氏に、建設ラッシュに沸く最新のビルやマンションはどう映っているか。安藤氏のポリシーは、プロボクサーを諦め、建築家としてのキャリアをスタートさせた頃から何も変わってはいないという。
──2020年の東京五輪は日本人の「夢」や「目標」となるのか。
安藤:「都市型」というのがひとつのキーワードのようですが、ただオリンピックをやるだけではなくて、ビジョンを掲げられれば大きな夢、目標になるでしょう。例えば「環境対応」を前面に打ち出すことです。
次世代の街づくりにしても、災害に強い都市を目指して防災公園をつくってネットワーク化したり、電線を地中化したりするなど、やれることは多い。そうしたビジョンを打ち出せば、それは私たちの夢へと変わります。
──そうなれば東京、日本の景色は変わりますか。
安藤:窓の外の「ビジネススーツ・ビル」(建築史家・鈴木博之氏が東京の高層ビルを一瞥して評した「代わり映えがしない」を意味する言葉)を見てもわかる通り、今は誰も責任を取りたくない時代です。責任を取りたくないから建築も無難になる。政治家も経営者もビジネスマンもそうでしょう。しかし「無難」に人が惹き付けられますか? リスクがあっても夢やビジョンがあるから、人が集まって新しいアイデアができると思います。
iPS細胞の開発でノーベル賞を受賞した山中伸弥さんだって、無難に生きていたら発見はなかった。そこには夢があった。目標があった。
一人ひとりが無難な生き方を捨て、思い切った人生に挑戦する。そういう世の中になって欲しいと願っています。
※SAPIO2014年5月号