4月30日、前立腺がんのため、この世を去った作家の渡辺淳一さん(享年80)。渡辺さんは、男女の濃密な関係を描いた『愛の流刑地』や『鈍感力』など数々の作品を世に送り出す。特に映画やドラマにもなった『失楽園』は、作中の過激な性描写などが話題を呼び、流行語大賞を受賞するなど、一大ブームを巻き起こした。
「渡辺さんの恋愛小説が読者を引きつけたのは、単に性描写が刺激的だったからではありません。変化する男女関係、衰えゆく肉体、欲望、嫉妬、孤独。そこに人間の本質が色濃く表れていたからです」(渡辺さんの知人)
「リアリティーのない小説は書いちゃいけないと思うね」
本人がそう語るように、渡辺さんの多くの作品は実体験に基づいている。
高校時代、渡辺さんは同級生とつきあっていた。初めて想いを寄せた女性だった。
しかし彼女は、渡辺さんの元に赤いカーネーションを残し、阿寒湖のほとりで自死をとげる。彼女の死後、その女性が渡辺さん以外の男性とも交際していたことが判明。そんな女性をモデルとして描かれたのが『阿寒に果つ』(あかんにはつ)だった。
女性との噂は数知れず、銀座の高級クラブにも通い詰めた。映画版『失楽園』でヒロインを務めた黒木瞳(53才)、さらにドラマ版『失楽園』で主役に自ら抜擢した川島なお美(53才)らとの関係も囁かれた。
渡辺さんと40年以上の親交があり、自伝小説『阿寒に果つ』の担当編集者だった水口義朗さんはこう語る。
「経験したからこそ書けることは、やっぱりあると思うんです。何人かつきあっていた女性も知っています。男として恋愛を楽しみつつ、しかし作家としての苦悩を持ちながら、女性たちの心身の奥底を見ていたんでしょうね」(水口さん)
生前のインタビューでは、男女の愛について、多くの言葉を遺した。
「不倫なんかをしても、利益も何もない。もう危険なだけですよ。それでも懸命に愛し合っているんだから、それは純愛に決まってるじゃないですか」
不倫だからこそ燃える愛を語り、そこには心と体の一致を求めた。
「人間には、身も心もあるからね。肉体と精神の両方が深く結ばれて初めて生まれる愛でなければ、僕は納得しない」
しかし、その絶対的な愛の考え方にも変化が生じる。前立腺がんが発覚する少し前の70才を超えた頃から、それまで男女の愛には必ずセックスがあると考えていた彼が、セックスのない愛を求め始める。
「勃とうが勃たまいが、女性は案外気にかけていない(中略)僕はインポテンツになってから、より深く女性を愛することができるようになった。それは、なったからこそ分かる発見だ」
当時のインタビューでそんなふうに話していたこともあった。
※女性セブン2014年5月22日号