1907年に「麒麟麦酒」としてスタートして100年あまり。長く業界首位を保ってきたキリンビールが、近年はアサヒビールに次ぐ「2位」が定位置になりつつある。その巻き返しの戦略として、「一番搾り」に徹底的に注力する背景について、ジャーナリストの永井隆氏が報告する。
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キリンビールは2001年に業界首位の座をアサヒビールに明け渡した。以降、2009年を除いて業界2位が定位置となりつつある。2013年は年初に前年比約1%減と大手で唯一「マイナス計画」を掲げて臨んだ。手堅い目標とされたが、結果は3.3%減と、それを下回る苦戦ぶり。下表の通り、シェアでもキリンだけがマイナス。「キリンが落としたシェアを3社が分け合っている」(ライバル社幹部)状況だった。
清涼飲料のキリンビバレッジも近年、伊藤園、アサヒ飲料に抜かれ、いまは5位だ(1位は日本コカ・コーラ、2位はサントリー食品)。
株式時価総額でも今年1月、キリンHDはアサヒグループHDに初めて逆転を許した。苦境が続く中、再成長への道筋をどう描くかが問われている。
業界全体で見ても、ビール類(ビール、発泡酒、第3のビールの合計)の出荷量は大手5社で9年連続減少。2013年の出荷量は前年比1%減の4億3357万箱(1箱は大瓶20本換算)。業界自体が縮小する中で成長を実現することは簡単ではない。
そこでキリンが打ち出しているのが、『一番搾り』に徹底的に注力する戦略だ。これまでビールは『ラガー』との2本柱で営業の力も分散されていたが、「選択と集中」で一番搾りを伸ばしていく作戦である。意外かもしれないが、明確に一番搾りをフラッグシップと位置づけたのは初めてのこと。プレミアムを通年販売しないのも(定番の)一番搾りに集中する姿勢が表われている。
その一番搾りは昨年末に大きくリニューアル。今年に入り、広告宣伝でも集中的に資金を投下している。
キリンは今年、ビールは「前年並み」、ビール類では「+0.1%」を計画している。一番搾りに限れば「+2.4%」を見込む。キリンがビールの出荷量で前年を下回らないのは1994年以来、実現できれば20年ぶりとなる(ビール類がプラスとなれば7年ぶり)。それだけに、一番搾りの成功は必達目標となる。
※SAPIO2014年6月号