パクリ大国・中国の知的財産権侵害は世界が強く批判しているが、「相手の土俵」で戦うことになる日本企業側が対応に苦慮するケースは多い。中国で知的財産権を巡る訴訟が急増し、日本企業も巻き込まれている。中国の知財問題に詳しい河野特許事務所の河野英仁氏(弁理士)が解説する。
「中国最高人民法院によれば、2012年の知的財産権訴訟は8万7419件で前年から約50%増加しました。日本企業が特許権侵害で提訴される事件も増え、最近では大連にある日本のバルブメーカーの現地法人が中国企業から『実用新型特許権』の侵害で提訴され、製品販売差し止めと損害賠償命令が下されました」
日本側が訴訟を起こすのではなく、中国企業に訴えられて負ける。そうしたケースが今後は増えるという。ミソは「実用新型」という種類の特許で、先に申請すれば創造性のレベルが低いアイデアでも権利を主張することができる。
日本にも同様の制度はあるが、中国では実用新型の案件であっても侵害が認められれば高額の賠償となるのが特徴で、要はこんな基本的な公知の技術で訴訟など起きないだろう」と思っていると足下をすくわれる。
“レフリー”が敵になるリスクはお馴染みのパクリ模造品についても同様だ。
「最近では日本メーカーも模造品の販売現場や製造工場を独自に調べて現地当局に通報する取り組みを進めている。ところが、模造品工場から仕入れている業者が地方政府OBを受け入れているケースなどでは証拠隠滅されてしまうことがある」(グローバル知財・代表弁理士の小倉啓七氏)という。今後はさらに厳しい局面が予想される。
「仮に裁判に持ち込んでも地方では模造品工場の経営者が地域の有力者で、裁判官の任命に関わっていることすらある。そんな案件はまず勝てない。控訴して中央の裁判所で争えば勝てるものもあるが、訴訟にかかる時間が長引いてしまい、日本企業側のコストはどんどん膨らむ」(前出の日本メーカーの中国法人幹部)
※SAPIO2014年6月号