東西冷戦終結の象徴であるG8体制が崩壊した。
ロシアがウクライナのクリミア自治共和国を編入したことに対して、米国、EU(欧州連合)、日本などが対露制裁を発動し、さらにG8(日米英仏独伊加露)からロシアを排除する決定を行なった(6月にロシアのソチで行なうG8サミットをボイコットし、ベルギーのブリュッセルでG7サミットを行なうことにした)。
仮に今後、G8にロシアが復帰する場面があったとしても、G8は米露が自らの政治宣伝(プロパガンダ)を展開する場になり、国際社会の重要問題を建設的に解決することはできない。
一部に国際関係が「新冷戦」に転換したという見方があるが、不正確な表現だ。
冷戦には2つの特徴がある。第1は、共産主義対資本主義というイデオロギー対立だ。ロシアも米国、EU、日本も資本主義国で、政治指導部が国民による選挙によって形成される。ウクライナ問題をめぐっても、ロシアと米・EU・日の間にイデオロギー対立は存在しない。
第2の特徴は、ブロック間対立だ。ウクライナ問題をめぐっては、ロシアを全面的に支持し、ブロックを形成する国はない。イデオロギーに基づくブロック間対立という特徴を有していない現下のロシアと米・EU・日の対立を新冷戦と名づけるのは適当でない。
現在進行しているのは、主要国、国家連合(EUは独仏提携を基本にした広域帝国主義ブロック)の帝国主義的な対立だ。19世紀から20世紀初頭にかけて国際社会を支配した帝国主義の特徴は、植民地争奪をめぐる帝国主義諸国間の全面戦争だった。21世紀の主要国は、維持するために膨大なコストがかかる植民地を獲得しようとはしない。
また、主要国間の全面戦争を避ける傾向がある。仮に戦争になっても、それは主要国以外の場所(イラク、アフガニスタン、シリア、リビアなど)で行なわれる傾向がある。ロシアは戦争を望んでいない。
ウクライナで、兄弟民族であるロシア人とウクライナ人が戦争を行なえば、両者の民族対立がロシア国内に波及し、ロシアの国家体制を揺るがすことをプーチンが懸念しているからだ。
文■佐藤優
※SAPIO2014年6月号