7月に行われる滋賀県知事選挙への不出馬を表明した、滋賀県知事の嘉田由紀子さん(63才)。その理由について、嘉田さんの次男・修平さん(35才)は少し逡巡しながら、こう口にした。
「不出馬の理由はいろいろありますが、きっかけとして見れば、兄の反対というのがかなり大きかったのかもしれません」
実は嘉田さんの不出馬の陰には、長男が反対せざるを得ない、そして嘉田さん自身も押し切ることができない“問題”があった。修平さんが家族の苦悩の日々を明かした。
「兄の反対には、大津のいじめ問題が深く関係しているんです」
2011年10月、滋賀県大津市の市立中学校の2年生だった男子生徒がいじめにより自殺したことに端を発した「大津いじめ事件」。学校側は全校生徒を対象にいじめの実態に関するアンケートを行ったが、「いじめと自殺の因果関係は不明」として調査を打ち切った。だが、実際にはアンケートの回答のなかには「自殺の練習をさせられた」といった記述があったことが発覚して、学校側のずさんな対応が明らかになり、社会問題となった。
その後、大津市が設置した第三者調査委員会は、2013年1月に「プロレス技をかける」「死ねと罵声を浴びせる」など19項目のいじめ行為を認定。今年3月にはいじめを行っていた元同級生2人の処分が決定したばかりだ。
この事件が、なぜ嘉田さんの不出馬に影を落としているのか。修平さんが続けた。
「兄の子供が、あたかもいじめ事件に関係しているかのようにネットで書かれたんです。子供は加害者生徒と学年が近いのですが、通っていた中学校も別で、まったくの無関係だし、顔さえ知りません。それなのに、兄の子がネットであれこれ書かれ、疑いの目で見られたりして、本当に悩んでいた。このことで、兄が母に怒ったんです」
「滋賀県いじめから子どもを守るための対策本部」の本部長として先頭に立っていじめ対策にあたった嘉田さんへの風当たりも強く、嘉田さん自身も「問題を押さえ込もうとした加害者の母親とグルだ」などと、ネットで根も葉もない噂を立てられた。
もちろん、事実でもない書き込みについて、嘉田さんに何の責任もあるはずもない。だが、長男の怒りの矛先は、嘉田さんに向けられた。
「兄の怒りもわかります。母の責任ではないことはわかっていても、他に怒りのぶつけ先がないんです。結局、それは “知事をやってるから、こんなことになるんだ”というところまでいってしまう。それは尋常ならざる怒りでした。
本当に痛ましかったですね。いくら母が滋賀では有名人とはいえ、これはないですよ。全く関与もしていない母や、それ以上になんら知りもしない兄の子供に、あらぬことをでっち上げるなんて、絶対に許せないことです」(修平さん)
時に声を荒らげて母に不出馬を迫る長男の怒りに接し、孫の苦しみを知った嘉田さんの苦悩は、計り知れない。ワインの量は増え、お酒を飲まないと寝られなくなった。
「こんな事実無根の話が出てくるのも、自分が知事でいるからだ。孫がかわいそうだと、知事を辞めるという話まで出てきたんです。今は事実ではないとわかってきたのか、下火になってきましたが、この問題がなければ、もしかしたら兄もこれほど反対はしなかったし、その意味では母もまた知事選に出たかもしれません」(修平さん)
自分が夫と別れてひとりになることなど、これっぽっちも躊躇しなかった嘉田さんが、出馬をやめてまでどうしても守りたかった家族の平和。それはこれまで自分の決めた道を脇目も振らずに突き進んできた自分を励まし、女性が働くことへの社会の冷たい目に対して、時に壁となって守ってくれた子供たちへの、嘉田さんなりの贖罪なのかもしれない。
※女性セブン2014年5月29日号