世界保健機関(WHO)がいま、世界的な蔓延を警告する病気、それが「淋病」である。
「終末論的な幻想ではないが、一般的な感染症や軽傷が致死的となるポスト抗生物質時代が21世紀に到来する可能性は非常に高い」
「抗生物質の開発や生産、処方の方法を変えなければ、世界は公衆衛生の実現手段を失い、その影響は壊滅的になる」
WHOのケイジ・フクダ事務局長補は記者会見でこう述べた。
「終末論的な幻想」「影響は壊滅的」……およそ国連機関の幹部の言葉とは思えないおどろおどろしい文言だが、それが大げさではない状況にある。
この4月30日に発表された「抗菌薬耐性:2014年世界報告」は254ページにわたり、従来の抗生物質では死滅しない「超強力な細菌(スーパーバグ)」に関する調査結果や医療の状況などについて報告した。それによれば、世界の国々で抗生物質が効かない耐性を持った黄色ブドウ球菌や大腸菌などが出現し、警告レベルに達しているという。
いままで抗生剤を飲んでいれば治っていた結核、大腸炎、肺炎などの感染症が“不治の病”に逆戻りする。江戸時代のコレラの大流行を描いたTVドラマ『JIN―仁―』(TBS系)のように、150年前と同じ深刻な状況が再び訪れる可能性があるのだ。
淋病研究の権威で、元・産業医科大副学長の松本哲朗氏(現・北九州市役所保健福祉局医務監)はいう。
「淋病に抗生物質が効かなくなりつつあります。最初はペニシリンが効かない耐性菌ができ、それ以降、さまざまな抗生物質が開発されては効かなくなった。日本においてセフィキシムは、決められている投与量では効く人と効かない人が半々という状況なので、現在は注射剤のセフトリアキソンという抗生剤が主に使われています。
しかし、このセフトリアキソンも、4年前に日本で完全に耐性をもつ菌が発見され、世界の医療関係者に衝撃が走ったのです」
「最後の切り札」ともいえるセフトリアキソンにも耐性をもつ「スーパー淋病」がすでに誕生しているのである。しかも、世界で初めてこのスーパー淋病が発見されたのは日本だった。