政府は、少子高齢化で激減する労働力の穴埋め策として、移民の大量受け入れについて検討に入った。内閣府は毎年20万人を受け入れることで、人口の大幅減を避けられるとの試算を発表している。
まず是非を論じる前に、なぜこのタイミングで移民受け入れが急浮上したかを知る必要がある。政府・自民党は日本が今後、人口減少社会になり、労働力も市場も縮減して国力を維持できなくなるからだと説明しているが、それは方便である。
そんなことは20年も30年も前からわかっていたことであり、にもかかわらず政府も自民党も知らぬ顔で対策を怠ってきたのがその証拠だ。
実際には、東北復興に加えて5兆円もバラ撒いた景気対策の公共事業、さらに東京五輪特需も重なって建設業界で人手が不足し、業界団体から政府・自民党に「外国人労働者を入れてほしい」というロビー活動があったからだ。せっかく目の前に旨そうな肉がぶら下がっているのに、それを?むための手は、すでに別の肉で一杯になって取るに取れないのが悔しいというわけだ。
だからこの移民政策は、今になって過去の不作為を悔い改めて国の将来を憂えた結果ではなく、いつも通りの政官業トライアングルによる御都合主義の政策転換である。
しかも、同じことは20数年前にもやっている。バブル末期の1980年代後半から1990年代初めにかけて、政府は意図的に出入国管理を緩め、イランなど一部の国とはビザ免除の特例を結んだ。好況で人手が足りない産業界からの要望を受けたからだ。
その結果、一時的に国内の仕事は回るようになったものの、景気が悪化すると彼らは失業者となり、やがて不法滞在者となって社会問題化した。偽造テレホンカードを売るなど犯罪に手を染める者も少なくなかった。
また、戦争の歴史と深く関わる在日韓国人、在日朝鮮人の存在は、最近になって激しい排斥運動を勢いづかせて日本社会と国際関係の不安要因になっている。外国人を受け入れて安定した国家を築くことは簡単ではない。
※SAPIO2014年6月号