人口減少が将来的に見込まれる日本では、「移民受け入れ」の議論が発生している。移民はどんな影響を日本経済に与えるのか。20年以上前から「移民は不可欠になる」と提言してきた大前研一氏が指摘する。
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人口が減ってくると建設労働者や漁業者など厳しい仕事の現場は人材確保が難しくなっていくので、この領域に今後は外国人労働者を年間30万人規模で受け入れなければ立ち行かなくなると思う。とはいえ「人手が足りないからどんどん入れましょう」では、言葉や習慣、文化などが理解できないまま日本で働き、生活することになって軋轢やトラブルを生む懸念がある。
だから、たとえば日本で働きたい外国人で、母国でしかるべき教育を受けた人材に関しては、政府が費用を負担して日本の学校で2年間、我が国の法律や言葉、社会慣習などの基礎を学んでもらう。
そして卒業試験の結果、問題なく生活できると判定されたら「日本版グリーンカード(国籍がなくても永住することができる権利およびその資格証明書)」を発行して労働市場に出てもらえばよいと思う。これは他の国に例がない仕組みであり、外国人労働者の居住地のスラム化を防ぐ有効な手段となる。日本が導入に成功すれば、世界から大いに評価されるだろう。
内閣府は「年間20万人」の移民受け入れ試算を出したが、それが明らかになってから、とくに若い保守層の間では「移民を入れたら国の統一性がなくなる」「中国人が増えて社会が不安定になる」という危惧が表明されている。政府・与党内でも「治安が悪くなる」「賃金水準が下がる」として移民受け入れに慎重な意見が少なくない。
彼らは彼らで真面目に自分の国のことを考え、声を上げているのだろう。かつて日本で60年・70年安保闘争を繰り広げた学生も(今では「若気の至り」と頭をかいている人ばかりだが)、当時は真剣に国の将来を憂えた純粋な若者たちだった。
中国と台湾がいっそうの市場開放に向けて昨年調印した「サービス貿易協定」に反対し、4月に台湾で立法院(国会)を占拠した学生たちもそうだろう。彼らの思いは理解できるし、全く悪いことではない。
その愛国心・憂国心をもとに、もう少し長期的な視座に立って日本の将来を見ると、この国のためには移民はいずれ何らかの形で受け入れざるを得ないという現実を直視できるようになると思う。
「愛国者は移民の受け入れに反対すべき」「移民政策を進めるのは反日的」という足下の二元論では問題は解決しない。「右翼」「左翼」というレッテルに惑わされることなく、この国の未来を担う人材の量と質の問題を真剣に考えるべき時が来ている。
※SAPIO2014年6月号