安倍晋三首相が集団的自衛権の説明会見で誇らしげに持ちだした2枚のパネルを覚えている方は多いだろう。
1枚目は、「邦人輸送中の米輸送艦の防護」というタイトルで、赤ちゃんを抱いた日本人の母親を乗せて外国から日本に向かう途中の米国の輸送艦が、攻撃国からミサイルを撃ち込まれているのに、自衛隊の艦船は防衛できないというイラストが描かれていた。
2枚目のタイトルは「駆けつけ警護」。イラストには日本のNGOのスタッフや国連職員(民間人)が武装集団に攻撃され、それを近くに派遣されていた自衛隊部隊が警護できないという内容だった。
「みなさん、あるいはみなさんのお子さんや、お孫さんたちが、その場所にいるかもしれない」
「日本国憲法が、こうした事態にあって、『国民の命を守る責任を放棄せよ』といっているとは私にはどうしても考えられません」
安倍首相は力説し、集団的自衛権行使という憲法解釈変更の必要性を説いた。全部ウソだ。
「どちらのケースも憲法解釈を変えなくてもできることです」
そう語るのは、防衛庁運用局長などを歴任し、小泉内閣では内閣官房副長官補として自衛隊のイラク派遣を担当した安全保障法制のプロ、柳澤協二・国際地政学研究所理事長である。
「邦人輸送中の米輸送艦の防護は、自衛隊法を改正して邦人を守るための武器使用を可能にすればできる。駆けつけ警護も、自衛隊が近くにいる民間人を守ることは今の憲法解釈の範囲でも可能です」
それならなぜ安倍首相はわざわざパネルを用意して「憲法解釈を変えないと守れない」と言い張ったのか。
「最初から憲法解釈変更で自衛隊にやらせたいことを明らかにすれば国民は反対する。そのため、いかにも“そういう場合なら仕方がない”と国民が思うようなケースを提示して集団的自衛権の行使を認めさせ、その後、本来の集団的自衛権の使い方に移っていくつもりではないでしょうか」(柳澤氏)
それでは騙し討ちではないか。
※週刊ポスト2014年6月6日号