3.11東日本大震災の被災地、宮城・石巻市は、コラムニストの木村和久さんが高校卒業までを過ごした地。木村さんが、縁ある人々の安否を自身の足で訪ねながら、震災直後から現在の状況までをレポートします。今回は陸前高田市の奇跡の一本松について。
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東日本大震災で、三陸の鉄道網は壊滅的な被害を受けました。故郷の石巻線や仙石線はいまだ全線復旧とはなっていません。ですが、ひと足お先に、『あまちゃん』(NHK)で有名になった、三陸鉄道(通称、三鉄)が全線運転再開となり、まことに喜ばしい限りです。
今回は石巻から、「奇跡の一本松」の陸前高田市を抜けて北上し、三陸鉄道南リアス線に乗り釜石まで行きます。そこでは宮沢賢治をイメージして作られた、SL銀河が運行しており、それを見られたらなというプチ旅行です。
そもそも三陸の鉄道計画は、石巻市の前谷地駅を基点に、海沿いを気仙沼、釜石、宮古と通過し八戸へと繋がる、夢の鉄道網だったのです。実際はJRの民営化などで、赤字路線は建設しないことになり、計画が何度も頓挫し、最終的には第三セクターでの運営もありでようやく開通にこぎつけました。しかし細々と営業していた矢先、津波で線路は流され、いまだ半分以上の区間が開通していないのです。
石巻の前谷地からディーゼルカーに乗ると現在の終点は柳津駅で、そこまでの距離は約17km。そこから三陸鉄道南リアス線の起点、大船渡の盛駅までの約110kmは鉄道が不通で、代わりにBRT(バス高速輸送システム)というバスが走ってます。
ですから三陸鉄道開通は喜ばしいのですが、三陸全体での全線開通には程遠いのです。
そんな状況を踏まえて、まずは陸前高田市に行ってみました。ここは奇跡の一本松で有名になった場所で、以前は高田松原というきれいな松林と、遠浅の砂浜が風光明媚でした。ですが現在は、サイボーグ状態になった松が一本というありさまです。予想はしていたのですが、あまりのすさまじい光景にただ呆然とせざるを得ませんでした。
陸前高田市は、現在復興が急ピッチで進んでいるのは確かですが、その進め方がすごい。街の裏山から土砂を採取し、それを巨大なベルトコンベヤーで市内に運ぶプロジェクトを実施しています。ですから街には巨大なコンベヤープラントが縦横無尽に走り、大きな工場のようで、もうわけがわかりません。
肝心の奇跡の一本松はどこにあるのかというと、しっかりBRTのバス停にも名前が刻まれ、観光名所化していました。表示はあるが松はなし。ぐるりと周囲を見回すと、その巨大プラントのはるか奥に松がポツンと立っていました。結構バス停から歩かされました。皆さんもニュースで知っているように、奇跡の一本松は、1億5000万円をかけて腐らないようにと永久保存されました。つまり樹木に特殊なコーティングをしてサイボーグ化したのです。
ですからよく見ると樹木がテカテカしており、まあこれも仕方ないのかなと。
奇跡の一本松は、何もない空をバックに見ると、なんかとても、もの悲しい姿に見えます。むしろ工事中のクレーンや崩壊した建物をあえて視野に入れるほうが、現実的なのではないでしょうか。
枯れた木に巨額のお金を使ってという意見も確かにあります。けれど今の陸前高田には、見るものはこれしかないのです。巨大建設プラントの陰に隠れてひっそりと佇む一本の松。そのけなげな姿にむしろ感動すら覚えます。ぜひ皆さんも行って、応援してやってください。
※女性セブン2014年6月12日号