日米同盟がある以上、さすがに中国が武力で尖閣諸島を奪いにくることはないのではないか──そんな空気が日本にはある。
だが、大マスコミの報道内容と現実の日米関係は乖離している。それが顕著に表われたのは、4月のオバマ大統領来日だ。
共同記者会見でオバマ大統領が「日本の施政下にある領土、尖閣諸島も含めて日米安全保障条約の第5条の適用対象となる」と発言したことを、新聞・テレビは大々的に報じた。特に親米保守派は歓迎ムード一色だった。
だが、それは「勝手読みが過ぎる」と元外務省国際情報局長の孫崎享氏は批判する。
「オバマ大統領の発言には重要なポイントが4つあった。
【1】尖閣諸島が日米安保の適用範囲である。
【2】アメリカは領有権については中立な立場をとる。
【3】安倍首相に『事態がエスカレートし続けるのは正しくない』と言った。
【4】(中国が尖閣に対して取る行動について)レッドライン、越えてはならない一線は引かれていない。
最後の【4】は仮に中国がどこまで侵略してきたら米軍が動くか決めていないということだから非常に重要な発言だった。ところが【2】から【4】まではほぼ無視され、【1】だけが大々的に取り上げられた。【1】はその会見でオバマ大統領自身が指摘しているように、ヘーゲル国防長官もケリー国務長官も過去に同様の発言をしてきた。それがオバマ大統領自身の口から語られたからといって、新たにどれほどの重い意味を持つというのか」
そもそも、「日米安保の適用範囲」というのは米軍がそれを軍事力で守ると約束したことにはならない。日米安全保障条約の第5条にはこう書かれているからだ。
〈日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和および安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する〉
この条文にはカラクリがあると孫崎氏は指摘する。
「『自国の憲法上の規定及び手続きに従って』ということは、アメリカの交戦権は米議会にあるから、議会の承認が得られなければ米軍は動かないということだ。同盟国が攻撃されたら軍事を含めて必要な措置をとることを明確に定めているNATO(北大西洋条約機構)とは大きく異なる」
※SAPIO2014年7月号