政治家が非公式に開くオフレコ懇談会(オフ懇)の内容は原則的に外部に知られることはない。オフレコを前提に本音を聞く、というのは建前で、そこは読者には決して見せられない記者と権力者の馴れ合いの場だからだ。
当時の出席者によるメモと話をもとに首相と側近記者たちの酒宴を再現する。
【2013年7月24日 赤坂エクセル東急ホテル「ジパング」(日本料理店)】
自民党が参院選で大勝利した直後、安倍首相は東南アジア訪問を前に赤坂のホテルで数人のお気に入りの記者を相手に酔っていた。
記者:参院選のリベンジにカンパーイ!
<年長の記者が自民党選対さながらのセリフで音頭を取ると、安倍首相はいきなりビールの大ジョッキを飲み干した>
記者:6年前のリベンジを果たせましたね。
安倍:おう。6年前は本当に悔しい思いをした。ようやく悔しさを晴らすことができた。本当に良かった。
<首相は参院選勝利がよほど嬉しかったらしく、「リベンジ」「リベンジ」と繰り返して勝利の余韻を噛みしめていた>
記者:これで政権は盤石ですね。
安倍:野党なんてみんな解体だ。自民党にもオレに逆らえるヤツはいなくなった。
<首相はさらにもう一杯大ジョッキを飲み干し豪語する>
今井:総理、もうお酒はこのくらいにして下さい。
<お目付役としてついて来た、経産省出身の今井尚哉・総理首席秘書官がストップをかけるも首相は止めない>
安倍:憲法改正は私の政権で必ずやる。今はまだ直ちに本格的な憲法改正に動き出す環境は整っていないが、まずアベノミクスをきちんとやった上で憲法改正だ。私はアベノミクスで歴史に名を残す。
記者:もう残していますよ。
<記者にヨイショされながら、話題は懸案の中韓との外交関係改善にも及んだ。首相は意気軒昂に大見得を切る>
安倍:私が訪問した国で喜ばれなかった国はないんだ。中国も韓国もいずれオレに擦り寄ってくる。特に韓国との関係が取り沙汰されるが、そんなものは心配することはない。
今井:明日は早朝の出発なので、今日はそろそろ……。
<不用意な発言を心配した秘書官が再度ストップをかけてこの日はお開きとなった。この夜、首相はビール大ジョッキを3杯、大盛りの梅酒ロックを3杯飲み干していた>
※SAPIO2014年7月号