スーパーやコンビニで130~140円前後、セールとなれば100円台で売られることもある「第3のビール」は庶民の味方だ。それが今、財務省・国税庁からターゲットにされている。6月上旬に明らかになったサッポロビールのヒット商品『極ZERO(ゼロ)』販売停止騒動の背景には「大増税計画」があった。ジャーナリストの永井隆氏がレポートする。
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きっかけは、1本の連絡だった。東京・恵比寿にあるサッポロビール本社に1月、国税庁から「製法に関する情報提供要請」が入ったのだ。
当局が求めたのは、昨年6月にサッポロが発売した第3のビール『極ゼロ』に関する情報。製法によっては税率が安い第3のビールに該当せず、通常のビールと同じ税金がかかる―─だからレシピを明らかにせよという連絡だった。
それから約5か月。尾賀真城(まさき)社長は急遽会見を開き、苦渋の表情で「5月の製造分を最後に販売終了する」ことを発表した。突然の販売停止は異例のことだ。
発売からこの5月までの1年弱で600万ケース以上(1ケースは大瓶20本換算)、実に2億本を販売したヒット商品。同社主力の『黒ラベル』『ヱビス』、第3のビール『麦とホップ』に続く柱に育ちつつある矢先での出来事だった。
今後は一部の製造方法を見直して、7月15日から第3のビールよりも酒税率が高い発泡酒として同じブランドで再発売する。その“増税”の影響により、140円前後で販売されていた『極ゼロ』は20円ほど値上げされる見通しだ。
国税庁の「情報提供要請」を受けてから、社内は緊迫。限られたメンバーで製法に関する「自主検証」が進められた。
尾賀社長を横浜市の自宅で直撃すると「今は会見以上のことはお話しできません。終売と(リニューアルしての)再発売はベストな判断だと思っています。消費者にはご迷惑をおかけして申し訳ありません」と言葉少なに語るのみだったが、同社幹部社員はこう明かす。
「仮に、国税庁から先に“第3のビールではない”と認定されてしまえば、即日終売で小売店や流通などを大混乱に陥れてしまう恐れがありました。だから社内検証を進める一方で、役員らが繰り返し集まり、自主的な販売終了を決めました」
ただし、多くの社員にとっては「販売終了は寝耳に水だった」(若手社員)。5月末時点で残っていた製造途中の液体は捨てることになったという。
※週刊ポスト2014年6月27日号