医療の進歩によりがん患者の生存率は確実に上がった。しかしながら「がんと生きていく」場合に最も深刻なのが就労問題だ。治療しながら働けるのに解雇される、子会社に出向になり収入が激減する、そんな事例が多発している──。
「幸い、夫のがんは治ったけれど、まさかそのことでマイホームを失うことになるなんて…」
A子さん(35才・パート)の3才年上の夫が会社の健康診断で「初期の胃がん」と診断されたのは、昨年3月のこと。1人息子が小学校に上がるのを機に、一念発起して一戸建てのマイホームを購入した矢先の出来事だった。
「夫は胃を3分の2摘出する手術を受け、2週間ほど入院。それから2か月ほど休養して、仕事に復帰しました。治療費や入院費はがん保険で大部分を賄えましたが、復帰後の収入が激減してしまったんです」(A子さん)
夫はIT企業のエンジニアで、大きなプロジェクトのリーダーを任され、がんで休職する前の年収は800万円ほどあった。しかし、復帰後は役職給と出来高給がごっそり削られ、年収は400万円ほどにダウン。さらに半年もたたないうちに子会社への出向を命じられ、給与は以前の3分の1ほどに落ち込んでしまった。
「夫は胃が小さくなった影響で食が細くなり、体力的に以前のような残業は無理。『出向は受け入れるしかない』と無念そうに話していました。今の収入ではとてもローンを払えないので、買ったばかりの家は泣く泣く売りに出すことにしました」(A子さん)
それでも、仕事が続けられるだけA子さんの夫は恵まれているほうかもしれない。B子さん(45才・パート)の夫(48才)は3年前に前立腺がんが判明。手術か放射線治療か悩んだ末、より体への負担の少ない放射線治療を選択した。すると、会社側の態度が一変したという。
「放射線治療のために2か月間ほぼ毎日通院するので、その間休みをもらうしかありませんでした。夫がそのことを会社に申し出ると、『治療はいつまで続くのか』と露骨に嫌な顔をされ、『今なら退職金を増額できる。きみにとってもゆっくり治療に専念できたほうがいいんじゃないか』と言われたそうです。
ていのいい首切りですよね。夫は『会社に迷惑をかけたくない』と退職を受け入れました。形の上では自ら申し出た依願退職。長い間、会社のために一生懸命働いてきたのに、なんて冷たいのって怒りに震えました」(B子さん)
がん治療中は退職金とB子さんのパートでやりくりし、その後、夫は小さな会社に再就職できた。だが、年収は以前より大幅に下がったうえ、いつ再発して再び失職することになるかと、不安は消えないという。
厚生労働省の2003年の調査によれば、会社勤めをしていたがん患者の30%がB子さんの夫のように依願退職し、4%が解雇されている。
また、NPO法人がん患者団体支援機構とニッセンライフの共同実施アンケート(2009年)によると、がん患者の平均年収は約395万円(診断前)から約167万円(診断後)に激減している。
※女性セブン2014年7月3日号