うつ病を発症して自己退職に追い込まれた男性や、身寄りのないシングルマザーが生活保護を申請するもバッサリ断られたりするなど、運用のルールを逸脱した申請拒否は論外として、役所側の厳しい対応にもそれなりの動機がある。
大阪市内の区役所でケースワーカーを務める男性職員がいう。
「少ない日でも、1日50~60人、多い日では1日100人近くの相談を窓口で受け付けます。行列になり、3時間待ちなどはざらです。申請者の数が多すぎて、とても手が回らない。加えて、本当の生活困窮者ばかりでなく、申告書類にを書くなど不正申請者も少なくない。それに気づいて指摘すると、大声を張り上げて職員を恫喝する人もいる。
制度は性善説に立ったものなので、『収入はゼロだ』『病気で働けない』と申告されれば信じるしかないとはいえ、支払うお金は市民から預かっている税金。だから厳しい態度で申請者に臨む職員も出てくる」
今年2月、警視庁は3年間で1億円の売り上げがありながら、無職を装って生活保護費数百万円を不正受給した疑いで韓国クラブを経営していた韓国籍の女と日本人夫を詐欺容疑で逮捕した。夫も廃品回収業などで数百万円の年収を得ていたにもかかわらず、病気を理由に働けないと申告していたことが判明している。
不正受給数は増加の一途で、2012年度は全国で約4万2000件、金額にして約190億円にのぼった。
関西国際大学の道中隆教授(社会保障論)が指摘する。
「不正受給の問題は“私たちの税金が正しく使われていない”という国民の生活保護制度そのものへの不信感に繋がっている。1990年代までは生活保護受給者の約87%が高齢者でした。しかし、2000年代以降は現役世代でも受給する人が急増し、“困れば誰でも受給できる”という意識が広がった。それが不正受給増加の要因の1つになっている」
窓口対応の限界から、さいたま市、東大阪市、福岡市など12市は、生活保護の不正受給の情報を住民から募る専用ホットラインを設けて対策に乗り出している。実際に、近隣住民から「生活保護を受給しているはずの人が高級車を乗り回している姿を見た」といった通報が寄せられ、打ち切りに繋がったケースがあった。
役所が疑惑の受給者を呼び出して問い質すと当初は人違いだとシラを切っていたものの、「近所の人が何度も乗っている姿を目撃している」「俺の車じゃない」「じゃあ、誰の?」「……妻の」「離婚したはずでしょ」と追及の末、最後は渋々不正を認め、返還手続きに同意した。収入のある配偶者と離婚したように見せかけ、「収入がない」と不正申告するケースは多い。
※週刊ポスト2014年6月27日号