中国人の拝金主義は今に始まったことではないが、ここにきてメディアに関わる事例の摘発が相次いだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏が指摘する。
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習近平体制下の中国が言論に対する締め付けを露骨に強めてきている。
6月18日には、国内のイデオロギーを担う宣伝部が、記者のモラルが緩んでいることにより国内メディアが絡むゆすり行為や記事のねつ造といった問題が頻発していることを批判。その代表的な事件として8つのケースを唐突に公表した。
『河南青年報』は一部の組織が有利になる報道を有料で行う契約を結んだことが問題となり、『西南商報』は一部の町に対し強制的に4万元分の広告費を支払うように圧力をかけたという。また『南方日報』は企業にとって不利な情報を流さない見返りとして49万3000元を要求。『茂名晩報』は同じように記者活動のなかで入手した情報を使い13の企業と個人から2万6000元を受け取っていたという。
『山西市場報』は地元の石材工場に対して不利な情報を書かない見返りとして5万元を要求。『忻州日報』の記者は、地元の中学校の問題を暴露すると脅し7万元を騙し取ろうとし、陝西省の『健康導報』の記者は企業を恐喝、2万元を受け取っていた。そして『河南工人日報』の記者は、金融業者と組み取り立てに有利になる記事を書いた報酬として金品を受け取っていたというのだ。
実は、2か月ほど前の4月3日、中国共産党中央宣伝部は会議を開き国内に蔓延するメディアによる恐喝行為や記事のねつ造といった問題に対して厳しく対処するよう関連の9つの機関に通達していた。今回判明した問題ケースは、この2カ月の取り締まりの成果というわけだ。
こうして具体的なケースを見てみると一部の記者のモラルが拝金主義によって侵されていることが分かる。実際、企業同士の争いに金銭をもらって関わる記者の存在はかねてから指摘されてきたし、ネット上では業者に依頼し中傷合戦の様相を呈するケースも決して珍しくない。
だが、今回の宣伝部発のメディアに対する取締り強化は、そのメディアのモラル低下を利用した言論コントロールの強化という本当の目的を隠しているのだとの指摘もある。
ここ数か月、言論の自由や憲法の遵守などを求めた活動家らが次々と逮捕されている。街頭で市民の政治参加を求めた活動家の劉萍被告には懲役6年の実刑判決が下された。
しかも驚きは、中国共産党中央宣伝部の意向を受けた国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局が、新聞やテレビの記者に対して、「所属する報道機関の同意を得ずに政府に批判的な記事を書くことや独自にインターネット上にホームページを立ち上げることを禁じる」という通達を出したことだ。
言論の自由化は、習近平体制下で大きく後退することは間違いなさそうだ。