離婚をした夫婦が親権を巡って泥沼の争いを展開するような例は枚挙にいとまがないが、離婚後に元妻の妊娠が判明した場合、夫側は出産前の子供の親権を求めることはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【質問】
子供を望んでいましたが、できずに離婚。しかし、その後すぐに元妻の妊娠が判明。親権を求めたのですが、彼女は応じません。私はどうしても自分の子供を引き取り育てたいのです。離婚後であっても、半年以内なら元夫である私に、出産前の子供の親権を求める権利があるのではないでしょうか。
【回答】
親権を求める前提として、元妻が懐胎した子があなたの子供であることが必要です。子供と分娩した母親の親子関係は当然に認められますが、父親はそうはいきません。正式な夫婦の間の子供は嫡出子として夫の子供と推定されますが、それ以外は認知が必要です。
民法では「婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と定めています。推定ですから、離婚前、配偶者が長期間外国に滞在していて二人の子供ではありえないなどの特別の事情があれば覆されますが、そうでなければ、この条件を踏まえて、あなたは子供の父親と推定されます。
そして離婚後出生した子供の場合、同じく民法で「子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる」と定めています。すなわち、原則として、元妻が親権を取得するが、生まれる前であっても、協議で親権者を決定できます。協議がまとまらず、家庭裁判所に調停を申し立てても話がつかないときは、審判で親権者を決定してもらえます。
家庭裁判所は、もっぱら子供の福祉を図る観点から親権者を決めます。新生児の哺育(ほいく)には母親が適しているので、あなたが親権者に選ばれるには、元妻が不適格者であり、なおかつ、あなたが十分な哺育環境を提供できるという特異な状況にないと難しいでしょう。
しかし、いったん元妻が親権者となっても、子供のために必要であると認められる場合には、裁判所に申し出て、親権者を変更してもらえる機会もあります。親権の帰属は、なにより子供第一の観点で決まります。元妻に任せて心配な特別な事情があるのであれば、家庭裁判所に相談することをお勧めします。
【弁護士プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年7月4日号