タクシー業界には様々な隠語がある。たとえば無線で「工事中です」という言葉が出ると、本当は、警察による取り締まりが行なわれているから注意せよ、という意味なのだという。こうした車内で聞く言葉以外にもタクシー運転手の隠語は多い。その代表例をいくつか紹介しよう。
■お化け
「バブルのころには、夜な夜なお化けがうじゃうじゃ出たけどなぁ」「お、オレ、昨日久しぶりにお化けに会ったよ」という会話が運転手の待合所でかわされている。
「お化け」とは、いわゆる長距離のお客のこと。アベノミクスで少しは景気がよくなったとはいえ、最近は滅多に出くわさなくなったと運転手たちは嘆いている。
■万収(まんしゅう)
メーターが1万円以上になる「お化け客」を捕まえて得た収入のこと。
■篭脱け
自宅に到着した客が「財布を忘れたので取ってくる」といったまま、逃げてしまう無賃乗車のこと。タクシー運転手が遭う被害としては暴力行為よりもはるかに多い。
「数千円の被害で交番に届けても、かなりの時間を無駄にしてしまう。泣き寝入りせざるを得ないケースも多く、運転手が一番困る悪質行為です」(運転手)
■アヒル
運転手の1日の売り上げは約4万円といわれる。それが2万円台で終了してしまった場合を「アヒル」という。待機場では「今日はこのままじゃ、アヒルだよ」と焦る声が時折聞こえてくる。由来は数字の「2」がアヒルに似ているから。
■流れ弾
「うわ、流れ弾にあたっちゃったよ……」とは、長距離客の多い大企業の前や霞が関付近で客待ちをしていたら、たまたま通りかかった客に最寄駅までなどワンメーター料金で走らされてしまったことを指す。招かれざる乗客を総称して「流れ弾」ということもある。
■ワカメ
「回送」タクシーのこと。回送=海藻というダジャレ。また、酔っ払い客のことを指す場合もある。車窓から酔客を見るとユラユラと動いているように見えるから。
■青タン
夜10時から明け方5時までの深夜割増メーター。割増料金になるとメーター表示が青くなることに由来している。
■大日本帝国
東京のタクシー会社大手4社、「大和自動車交通」、「日本交通」、「帝都自動車交通」、「国際自動車」の頭文字を繋げた表現。都内の法人タクシーの約3割が「大日本帝国」で占められている。
※週刊ポスト2014年7月4日号