グラフィックデザイナーAさん(30代)が韓国・ソウルを旅したときのことである。かねてから韓国の反日感情を懸念していたAさんは、「多かれ少なかれ嫌な思いをするかもしれない」と思いつつソウルに旅立ったという。しかし、首都・ソウルでの数日間は思いがけず楽しいものになった、と帰国後に振り返る。
「私はせっかく宿泊するなら、韓屋(ハノク)と呼ばれる韓国の伝統家屋に泊まりたいと考えていたんです。韓屋は地形や季節を考慮した伝統的な韓国の家屋。もしかしたらその分、日本人への風当たりも強いかも…と頭をよぎったのですが、好奇心のほうが勝ってしまって(笑)」
Aさんが宿泊したのは、韓屋の趣きが残る北村(ブッチョン) と呼ばれる地区。その名の通り、ソウル特別市中心部の北側に位置するエリアで観光スポットでもある。実際に住んでいる家屋をそのまま宿泊施設として提供している家も多く、家族経営の韓屋も多いという。Aさんが宿泊したのは、まさに家族経営型の韓屋だった。
「最初は対応もぶっきらぼうだったんですよ。ですが、そこで暮らす20代の息子が、『お前は日本人か』って英語で話しかけてきたんです。ちょっと嫌な感じがしたんですが、「そうだよ」と答えると、『アニメは好きか?』と。私もアニメにはうるさいほうで、「好きだよ。とうか、ヲタだ」と答えると、明らかに彼の表情がほころんだ(笑)。そこからは永遠と『ガンダム』や『Fate/stay night』の話を振ってくる。意気投合というか、私も親近感を覚えましたね」(Aさん)
その後、さらに驚くべきことがあったという。
「彼は日本語対応のパソコン用グラフィック制作ソフトを持っていたのですが、日本語が理解できないためインストールできずに困っていたんです。そこで、代わりに私がしてあげることに。無事にソフトが起動すると、大喜びですよ。『これでFateのキャラクターを描きまくれるぜ! ありがとう! 宿代はタダでいいよ。親父には恩人だからと説得するから!」と(笑)。で、本当にタダになりました。ヲタ感情は反日感情などどこ吹く風なのかもしれません」(Aさん)
その後も、息子が車で韓国を案内してくれるなど至れり尽くせりだったという。結果、Aさんの韓国での思い出は、「何一つ嫌な思いをするものではなかった」ものに。もちろん、すべての旅がこのような幸運に恵まれるわけではなく、例外中の例外かもしれない。ソウルではない地方都市では、あからさまな反日感情も根強い。しかし一方で、アニメを知る者同士だったからこそ、フレンドリーシップを築けたのも間違いない。日韓に限らず、音楽やダンスのようにアニメが、対立感情の垣根を飛び越える存在になる日も近いかもしれない!?