「スーパーで買ってきたひらめの刺身を夕飯に食べた日の夜中。“なんだか熱っぽいな~”と思っていたら、急にひどい下痢と吐き気に襲われました」
そう話すのは、主婦のA子さん(41才)。彼女を襲ったのは、『粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう)クドア』という寄生虫による食中毒だった。耳慣れない名前だが、2000年頃から西日本を中心に報告されるようになった食中毒だ。
「ひらめなどの白身魚や、まぐろなどに潜むクドアによって引き起こされる食中毒です。主な症状は腹痛や下痢、吐き気ですね」
そう解説するのは、東京医科大学の松本哲哉主任教授だ。個人差はあるが、体に入ってから2~3時間というごく短時間のうちに、37~38℃前後の熱や倦怠感、次いで下痢や嘔吐などの症状が出るのが特徴だという。
2013年には全国で21件、合計244人。2014年に入ってからは、4月までに7件で92人という数の患者が報告されているこの食中毒。今年4月、千葉県船橋市内の寿司店からの出前でひらめの握りを食べた7人が、2月には鳥取県倉吉市内のホテルのレストランでひらめのカルパッチョを食べた8人が、いずれも下痢や嘔吐を訴えて病院へ運ばれた。
「これまでにクドア食中毒で死亡した例などは報告されていませんが、お年寄りや幼い子供など体力のない人がこの食中毒にかかると、最悪のケースも考えられます」(松本主任教授)
当初は発生原因がわからず、“謎の食中毒”と呼ばれていた。クドアという寄生虫そのものの存在は知られていたが、人間の体に悪影響があるとは考えられていなかったのだ。
「2010年になってやっと原因がクドアにあると特定されましたが、現在もほとんど研究がされていないため、どのくらい体内に入ると発症するのか、どんな場合に重症化するのか、といった細かいことは、はっきりとはわかっていないんです。
また、症状が出た際に、整腸剤の服用や点滴で吐き気をおさえるといった“対症療法”は可能ですが、体内の寄生虫を直接死滅させる効果のある薬はないので、ひたすら症状が治まるのを待つしかありません」(松本主任教授)
高温多湿になる梅雨どきから夏場にかけて多く発生しており、今の季節、より一層の注意が必要だ。ひらめやまぐろは、刺身として家庭の食卓に上がることが多い。それだけに、どう対処すればいいのか不安は募る。
「クドアに寄生された魚でも、マイナス15℃からマイナス20℃の低温で4時間以上冷凍するか、中心温度が75℃以上になるよう5分以上加熱すると失活(死滅)します。養殖施設では、魚がクドアを保持しないよう対策が講じられていますが、天然ものは寄生されている場合もあるので、生の魚を口にする場合には、流通過程や店頭に並ぶ間に、どう取り扱われてきたか気にする必要がありますね」(松本主任教授)
※女性セブン2014年7月17日号