中高年になると、よく知っているはずの固有名詞を思い出せなくなったり、これからしようと思っていたことをすぐ忘れてしまったりという経験が増える。「もしかして、ボケ始めたんじゃないか」──そんな不安を抱いたことのある人は少なくないだろう。
それでは、多くの人が悩む「固有名詞の欠落」はなぜ起こるのか。人間の記憶は長期記憶と短期記憶に分けられる。長期記憶の代表的なものが「エピソード記憶」だ。たとえば「4月の入社式の後、同期とカフェでお茶を飲んだ」というような記憶。日時や場所など様々な情報を物語のように関連づけながら記憶されるため、長く覚え続けられる。車の運転方法やダンスの振り付けなど、体で覚えた記憶は「手続き記憶」と呼ばれ、やはり長期記憶の一種だ。
一方の短期記憶に属する代表的なものが、まさに人名や地名などの固有名詞だ。こちらは一時的に必要な記憶であるため、いったん用が済んでしまうと忘れやすい。ちょっとした家事や買い物を忘れるのも理由は同じである。
たとえば「○×さん」という知人の名前はあくまで認識するための「記号」にすぎず、知人であることさえ認識していれば、その名前が「□△さん」でも「◎▽」さんでも構わない(相手が不快に思うとしても)。固有名詞を忘れやすいのは、脳にとってそれが長く覚えておく必要性が低い短期記憶だからなのである。
そこで、忘れないための対策は固有名詞を「エピソード記憶」として出来事に関連づけて覚えることだ。例えば「野球が下手なのに(←一緒に草野球をしたエピソード記憶)長嶋さん」、「下戸なのに(←酒席をともにしたエピソード記憶)酒井さん」などと覚えれば、より記憶は定着しやすくなる。
※週刊ポスト2014年7月11日号