アルカイダ系のイスラーム原理主義過激派「イラクとシリアのイスラーム国」(ISIS)が攻勢を強め、イラク情勢が急速に悪化している。これは対岸の火事ではない。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が、イラク情勢が日本に与える影響について解説する。
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イラクには、イスラーム教シーア派(12イマーム派)系の武装集団が存在する。この武装集団は、イランの支援を受けている。また、イランはこの勢力に対して、かなり影響力を行使することができる。
ロウハニ大統領が、「米国がイラクでテロ勢力に立ち向かうなら、検討することができる」と述べたのは、米国と分業して、ISISを壊滅し、マリキ政権を支援することが、イラン、米国双方の利益に適うという現実的な提案だ。この「敵の敵は味方である」という論理は、本格的な地上戦に踏み込む腹のない米国のオバマ大統領にとって魅力的だ。
しかし、米国が間接的にイランと手を結ぶことになれば、サウディアラビアの反米感情が強まる。サウディアラビアからすれば、イランのシーア派よりは、アルカイダ系武装集団の方がはるかにましだからである。
サウディアラビア、カタール、アラブ首長国連邦の王族の中には、アルカイダに共感する者もいる。イランの核開発問題でも、米国はイランに対する姿勢を軟化させつつある。米国とサウディアラビアの関係が急速に悪化する可能性も排除されない。
いずれにせよ、ISISがイラクの油田地帯を実効支配することになれば、それはアルカイダ系組織の重要な資金源になる。米国のオバマ政権は、そのような状況を看過しない。
アルカイダに対しては、国連常任理事国の米露英仏中のいずれも強い警戒感をもっているので、決議が採択され集団安全保障に基づき加盟国に軍事貢献が求められる可能性がある。
国連での合意が得られない場合でも、米国と西欧の死活的利益に関わるという観点から、米国が武力介入に踏み切り、同盟国に派兵を要求してくる可能性は十分にある。
安倍政権の憲法解釈による集団的自衛権行使を容認した結果、近未来に自衛隊がイラクに出兵する可能性が出て来た。この点についてマスメディアはもっと関心を払うべきだ。
※SAPIO2014年8月号