夏の甲子園を目指して、連日、全国で地方大会が行われている。そこで見た「ある驚きの光景」について、高校野球取材歴20年のフリーライター・神田憲行氏が語る。
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今年も高校野球の地方大会が始まった。地方にある初めて訪れた小さな球場の片隅にうずくまるようにしてグラウンドや観客席を眺めていて、驚くというか、時代の移り変わりを嘆息するような光景を何度か目撃した。
ある球場では、ベンチに入れずスタンドで応援に回った控えの野球部員が校旗を捧げ持つのを、部員の保護者であるお母さんが手伝っていたのを見た。校旗は風をはらんでたしかにひとりで持つには辛そうだ。また選手のお母さんたちがお揃いのTシャツを着てスタンドで応援している姿は微笑ましいものもある。しかし他の野球部員もいるのに、たなびく校旗の端をお母さんに抑えててもらうというのはいかにも恥ずかしい光景だった。
親に助けて貰うことが抵抗感がないのは、今の時代、小学校・中学校とも「親がかり」で野球をしていることが多いからかもしれない。たとえば中学生がやるシニア・リーグの世界では、土日の試合日になると保護者の「お茶当番」がある。選手や監督・コーチの水分補給にお母さんたちがお茶を配ってあるくそうだ。関東の強豪シニアの監督は
「なんかキャバクラみたいな変な雰囲気でね。うちでは止めて各自が水筒持ってくることにしました」
と苦笑していた。
別の球場では、試合前にスタンドの応援席に礼をしたあと、2人の選手がそのまま歩み寄って金網越しにスタンドの応援団と談笑している光景を見た。たとえば同じ3年生部員の姿をスタンドでみたとき、掛けたくなる声もあるだろう。しかしそれは試合後にしてはどうか。これから「負けたら終わり」の勝負の前にすることだろうか。相手にも失礼だし、そもそもルールにも違反する。
これは私だけが見た光景かと思ったら、雨天中断中、スタンドの女子高生とベンチ内の選手が手を振り合って会話しているのを見て、憤ってツイートしている人もいた。フェンスが低い球場ではよく見られる光景のようだ。
甲子園に出た学校の保護者の方を取材すると、息子を野球部に入れて良かった理由としてみなさん必ず「子どもが自立したこと」という。私も自分が17歳、18歳のときよりしっかりした、社会性を獲得した選手に数多くあってきた。応援でお母さんの手を借りたり、勝負の前にグラウンド外の人と談笑することは、せっかくの成長の機会を逃すことにならないだろうか。
ちなみに私が目撃した学校は両校ともコールド負けだった。