安倍晋三首相はことあるごとに、自らの祖父である岸信介元首相について言及する。だが、安倍首相は恐らく、岸の本当の姿を知らない。元外務省国際情報局長の孫崎享氏が、隠蔽された岸の実像に迫る。
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安倍首相は、岸がもっていた自主独立の気概を継いでいるのかというと、むしろやっていることは正反対だ。
集団的自衛権の行使は日本の安全のためだと言うが、実際には米軍が自衛隊を利用できるようにするだけである。邦人救出で日本人を乗せた米艦船を守るためと主張しているが、米国務省領事部のサイトを見れば、米国民以外の人間は配偶者であっても救出しないとはっきり書かれている。
TPPにしても米国企業の利益を確保するために過ぎない。岸は内政においては、郵便貯金を柱に地方の農村の経済基盤をレベルアップすることで日本の繁栄を築こうとしたが、安倍首相は大企業を優先し、TPPで日本の農業を破壊しようとしている。
従軍慰安婦問題でも、河野談話を見直すと言いながら、米国に批判されるとすぐに撤回し、靖国参拝も「サンフランシスコ条約体制に対する挑戦か」と恫喝されると、うやむやにしようとしている。
表向きは米国に追随しているふりをしながら、日本の自主独立を考えた岸と、表向きはナショナリストの顔をしながら実は米国に従属している安倍首相では、政治家の姿勢としては180度異なる。祖父の本当の姿と向き合っていただくことを切に願う。
※SAPIO2014年8月号