都内の30代サラリーマンA氏は、マイホーム購入の検討を始めた。6月に妻の妊娠がわかり、夫婦で住んでいる1DKの賃貸マンションが手狭になってしまうからだ。しかし、内心は出足の遅さを悔やんでいた。
4月1日に消費税が5%から8%へと切り替わった。たとえ3%とはいえ、単価の高い不動産購入への影響は大きい。
たとえば建物価格が1500万円の新築マンションなら45万円、4000万円なら120万円の消費税が余分にかかる。そのため増税直前には「駆け込み需要」で多くのマンションが売買された。
「好機を逸してしまった」──そう思いつつ不動産屋巡りを始めたA氏は、嬉しい誤算に気付いたと語る。
「中古マンションの購入を前提に物件探しを始めたのですが、首都圏の不動産屋を回ると、多くの業者で『増税前より大きく値を下げた』という物件を紹介されたのです」(A氏)
A氏は、営業マンが差し出したある物件に心奪われた。それは丸ノ内線西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅から徒歩8分のタワーマンション。
コンシェルジュサービス付き、ゲスト用の宿泊ルームサービスもある。高層階にある72平米2LDKの部屋には、広々としたウォークインクローゼットも付いている。
今年3月には6500万円で出ていた物件だが、現在は6100万円まで下げている。そして営業マンは、A氏にこう耳打ちした。
「売主さんとの交渉次第ですが、5000万円台までは頑張れると思います」
A氏の予算は5000万円前後だったが、思わぬ「出物」の購入を真剣に考えているという──。
増税前、不動産業界もメディアも「今が買い時だ」と駆け込み需要を煽った。「あのとき手を出しておけば」と後悔している人も多いだろう。
その後に公表された不動産価格のデータを見ても、人件費や資材価格など建設費の高騰に加え、大都市圏を中心に地価が回復傾向にあるなどの理由から値を下げていない。
増税前(3月)と増税後(4月)を比較すると、東京都の中古マンション70平米換算の価格は、3773万円から3782万円に微増している。これを見れば「買い時を逃した」と落胆したくもなる。
しかし、マンション販売の現場では、A氏のケースのように、増税前より大きく値を下げる物件が多くあるのだ。不動産ジャーナリストの榊淳司氏がいう。
「現在のマンション価格を押し上げているのは、富裕層や中国の投資家などが投資用に買う1億円近くするような都心部の超高級タワーマンション。平均的なサラリーマンにとって射程圏内のマンションは買い得になっている場合も多い。さらに、個人間売買となる中古の場合、消費税は仲介業者に支払う仲介手数料にしか発生しないので狙い目といえます」
※週刊ポスト2014年8月8日