「時間に縛られない柔軟な働き方を推進すれば企業の生産性は上がる」
事務職を中心に、1日8時間・週40時間と定められている労働時間の規制を一部取り払おうとするホワイトカラー・エグゼンプション(WE)の議論が大詰めを迎えている。経済界の要請も受けた安倍政権は、来年の導入を目指して法改正の土台づくりを急ぐ。
だが、「自分の仕事が早く終われば、空いた時間は趣味や家族サービスに充てられるようになる」と考えるのは早計だ。なぜなら、当サイトでも報じてきたように、かえって賃金の発生しない“サービス残業”が助長されかねないからだ。
『辞めたくても、辞められない』(廣済堂新書)などの著書がある人事ジャーナリストの溝上憲文氏が警鐘をならす。
「新しい制度は、社員それぞれの職務や成果を今まで以上にはっきりさせて、仕事もせずにだらだらと残業代を稼ぐ社員の人件費を削って企業の成長スピードを速めたい――というのが経営サイドや政府のホンネです。
でも、現状で労働時間の規制と成果主義を結びつけるには無理がありすぎます。
たとえ特定の専門職であっても、自分の裁量で職務や時間を決められる人は少数ですし、何でもやらされる“無限定正社員”が短時間で仕事を切り上げれば<120%の力が出せるはず>と、さらに大きな課題が与えられて残業しなければならない勤務形態を強いられるだけです」(溝上氏)
今のところ、政府案では為替ディーラーやアナリスト、研究開発部門など専門職に就き、年収1000万円以上の高所得者をWEの対象にしようとしているが、いつ、なし崩し的に一般のホワイトカラー社員に広がってもおかしくない。
「そもそも残業代の出ない管理職も含めて年収1000万円以上の社員は全労働者の4%以下。むしろ経済界の狙いは、働き盛りの20~30代の若手の残業代を削りながらもっと働かせようというものです」(溝上氏)
厚生労働省の調べでは、2013年に正社員全体の平均残業時間は月14時間だったが、20代後半から30代前半の男性社員に絞ると20時間以上になるとの結果が出ており、サービス残業と合わせると30時間はゆうに超えている。民間の転職サイトの調べでは、30代で月50時間前後との調査結果もある。