中国は2009年に主催した世界メディアサミットで「世界に影響する自国メディアを持つ」と宣言して以降、毎年、対外メディア関連予算を増強している。
雑誌『コロンビア・ジャーナリズム・レビュー』によると、CCTV、中国国際放送、新華社、チャイナデイリー(英字新聞)に対して2009年には年間87億ドル(当時のレートで約9000億円)の予算を投じている。
それ以外に外務省、党中央対外連絡部、同宣伝部などに投じられる同種の予算を合わせると、1兆円弱になるという。
対する日本は「対外発信を主に所掌している外務報道官・広報文化組織の平成26年度の予算額は199億円」(外務省国内広報室)である。NHK英語放送の予算(年間150億円程度)を合わせても、中国の足下に及ばない。約350億円に過ぎないのだ。
中国の国営メディア事情に詳しい拓殖大学の野口東秀・客員教授が解説する。
「CCTVは海外に60以上の支局を持ち、2012年1月にはケニアのナイロビに、2月には米国の首都ワシントンに制作センター(現地で独自に番組を制作・放送する拠点)を相次いで設立した。
中南米向けにも『アメリカズ・ナウ』という番組を日曜日に放送している。内容は中南米の経済状況のリポートと、中国が経済的にいかに発展しているかといったもの。中国がそれらの国々に対して発信する目的の1つは国連での票集め。もう1つは、中国に親しみを持たせることで、反日報道に備えた地ならしの意味があります」
米国では、メディア不況で給料が下がったアメリカ人キャスター、記者などを中国のテレビ局が年俸20%増で登用しているという。
テレビだけではない。
「中国の英字紙チャイナデイリーは2012年、『尖閣諸島は中国のもの』とする見開きの全面広告を記事に似せて地元紙に出した。同紙に所属する中国人の知人によると、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなど有力4紙に年間15億円を投じて広告を掲載するなどしています」(野口氏)
地元メディアの利用はさらに狡猾だ。中国の各国大使は安倍首相の靖国参拝への批判をそれぞれの地元紙に相次いで寄稿してきた。その数は、外務省が把握しているだけで、今年3月末までに73件。外務省はそれらすべてに文書を通じるなどして反論した。
中国の海外向け“反日宣伝”は、中国の内情に詳しい人はともかく、一般レベルでは確実に浸透していく。その影響力を過小評価することなく、度を越した反日報道にはその都度反論すると同時に、日本も海外発信力を大幅に増強していく必要がある。
※SAPIO2014年9月号