アベノミクスはここまで届かなかった。大阪・天王寺駅前に3月グランドオープンし、高さ300メートルで「日本一高いビル」として話題になった複合商業施設『あべのハルカス』で不思議な事態が起きている。
ビルの中核テナントである「近鉄本店」を展開する近鉄百貨店(大阪市阿倍野区)が8月25日、2015年2月期の業績予想を大幅下方修正。経常利益は従来予想の半分以下、33億円減の26億円と発表した。主な理由は近鉄本店の業績が不振だったことで、売上高ベースで見ればここ1店舗で下方修正の要因をすべて作った計算になる。
あべのハルカスの来場者数は5月末までで1124万人と目標を上回るペースで、百貨店の客数も前年比8割増。それなのに不調ってどういうこと?
隣駅から来たという60代女性の話が、すべてを物語っていた。
「ここで買い物はせえへん。暑い日はよく涼みに来るんや。クーラーがよう効いていて座るところもあってええで。お金使わんでも十分楽しめますわ」
来店しても買い物をする人が少ないのが原因のようだ。同社は来店客が買い物する比率を94%とみていたが、実際は80%程度に留まっているという。女性服売り場の店員はこう語る。
「地上288メートルにある展望台は観光客の方に人気ですね。でも、地元のお客さんは16階にある屋外庭園と17階のカフェばかり。展望台は1500円かかるけど、庭園はタダで入れて地上80メートルで眺めも十分いいから……。洋服? ほとんど売れませんよ」
どうやら、大阪の人たちはお金を使わずともあべのハルカスを満喫する術を心得ているらしい。
そもそも大阪は一等地の梅田で阪急・阪神・大丸・三越伊勢丹が争うなど百貨店激戦地。「高額商品を売る商圏としては梅田より弱い」(証券アナリスト)といわれる天王寺地区での後発の大開発は、計画当初から厳しさが指摘されていた。
もちろん近鉄百貨店も手をこまねいてはいない。
「9月には通路の改修などを行ない、お客さまがよりお買い物しやすい空間を作って売り上げアップを図ります」(広報課)
県民性の本ではケチでせっかちなどと書かれることが多い大阪府民。売り上げアップの前に飽きられないように。
※週刊ポスト2014年9月12日号