「血圧147は健康なのか」──医学界を揺るがした「健康基準値論争」について、70万人を対象とした大規模調査を行なった医学者が新たな問題提起をした。その核心を解説する。
きっかけは週刊ポストの特集記事だった。
「『血圧147は健康』で『病人1800万人減』のカラクリ」(5月2日号)
人間ドック学会が4月4日、150万人の人間ドック受診者のうち、健康な状態にある約1万人のデータをもとにはじき出した新しい「健康基準値」を発表。その新基準値について取り上げた本誌記事が大きな反響を呼び、他のメディアも特集を組むなど、健康基準をめぐる大論争に発展した。
「健康基準値」とは、血圧やコレステロール値などの数値が、ある一定の範囲内に収まっていれば「正常」、逸脱していれば「異常」と判定する際の基準となる数値のことだ。人間ドック学会の新基準が話題を呼んだのは、それらの数値が既存の基準に比べ、大幅に緩和されたからだ。
ところが、その新健康基準はその後、他の学会からの猛抗議を受けることになる。
<本当に「正常」といえるか不明であり(中略)一部には「要再検査、要治療」が含まれている>(高血圧学会)
<人間ドック学会の「基準範囲」は日本国民の健康に悪影響を及ぼしかねない危険なもの>(動脈硬化学会)
などと、既存の基準値を定めてきた各学会の逆鱗に触れたのだ。
そうした圧力の前に、人間ドック学会は「あくまで健康の目安であり、病気のリスクを示したものではない」と、すぐさま尻尾を巻いた。
そのまま押し切られるかに見えた「健康基準値論争」に待ったをかけたのが、大櫛陽一(おおぐし・よういち)・東海大学医学部名誉教授である。
大櫛教授は、いまから10年前の2004年、日本総合健診医学会シンポジウムのなかで、全国約70万人の健診結果から、日本ではじめて男女別・年齢別の「健康基準値」を発表した第一人者だ。
今回の人間ドック学会の調査のまとめ役といえる研究小委員会学術委員長を務めた山門實(やまかど・みのる)・足利工業大学看護学部長とは、かつて共同研究を行なった間柄でもある。