およそ120年ぶりとなる民法の改正により、中小企業が融資を受ける際に求められる連帯保証人について、個人が連帯保証人となることが原則的に禁止となる。うっかりハンコを押してしまったばっかりに、悲劇に見舞われたようなケースをしばしば見聞きするが、すでに金融機関の連帯保証人となってしまっている場合、今からこれを取り消すことはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
父が友人の会社を救うため金融機関の連帯保証人になりました。保証人はリスクが大きいので、父にそう進言したのですが「ハンコを押してしまったものは変更できない」と突っぱねます。しかし、今も家族は反対なのです。こういう場合、金融機関に対して保証人を取り消す要求はできないのでしょうか。
【回答】
保証契約は、クーリングオフできません。また事業性の融資の保証ですから、消費者契約法の適用もないでしょう。契約の取り消しは、お父さんが債務者会社の経営者である友人に騙されており、そのことを融資する金融機関が知っていたような場合に、詐欺を理由にできるだけです。
なお、保証に錯誤があったときには無効を主張できますが、認められるのは稀です。たとえば、保証する際、債務者の現状説明を受け安心して保証したのに、説明内容が虚偽だった場合は、保証の前提に錯誤があります。
しかし無効となるのは、例えば債務者を別人であると誤認したとか、原則として保証契約の内容自体に錯誤がある場合です。債務者の資産状態の誤認は、それなら保証してもよいという動機の錯誤ですから、契約時に保証する動機が表示された契約内容になっていないと無効にはなりません。
近年、金融機関は、会社経営者以外のいわゆる第三者保証に過度に依存しない融資に努め、平成16年に民法では、保証には書面が必要とされるようになっただけでなく、借金の場合は、限度のない包括根保証は無効とされるなど、保証人の責任限定を図っています。さらに、現在進行中の民法の大改正では、第三者保証を無効にする案も検討されています。
ただ現在では、文書に署名して特定の融資や限度額を定めての借り入れの連帯保証人となった以上は有効です。限度付根保証の場合には、5年以内の期間が定められていれば、その期限で定めがない場合、3年を経過すると元本の確定を請求できます。関係者の死亡や破産でも確定します。
ですが、これは確定日以後の借金には保証責任が及ばないことであり、確定時に残っている借金は保証しなくてはなりません。保証した以上、責任は重大といわざるをえません。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年9月12日号