不可解な事件には事欠かないのが中国だ。現地の情勢に詳しい拓殖大学教授・富坂聰氏が報告する。
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中国のなかでも詐欺事件が多発していることで知られる河南省で、警察官が窃盗の被害額を誤魔化していたという事件が明らかになったことで、にわかに全国的な注目を集めている。
場所は、河南省馬店市の正陽県という田舎町である。2012年12月30日夜、同県に駐在する公安局刑警隊が小さな窃盗団を捕まえた。
窃盗団は県内のほか西平県、平興県、唐河県の三つの県にまたがりさまざまな施設に侵入していたが、なかでも問題になったのは県処級幹部(県・課長クラス)の宿舎に入り込み盗みを働いたことだった。具体的には、正陽県党委員会書記(=正陽県県書記)、県長ら数名の幹部たちがターゲットとなった。
逮捕後、警察が窃盗団から押収した物品から被害を調べたところ、四つの県での合計被害額は数100億元で、幹部たちの宿舎からは現金で約250万元(約4250万円)。その他、金の延べ棒や高価な贈り物、骨董品などが多く含まれていたという。
事件はまもなく法廷に持ち込まれることになったが、このとき不思議なことが起きたという。警察官が被害者である正陽県県書記と面談した場で、書記は窃盗団から聴取した被害額を否定したというのだ。
問題を報道した『法政晩報』によれば、書記の趙興華はこう語ったという。〈「私の家には確かに泥棒が入った。しかし被害額は君が言うような大きな金額ではない。ほんの数1000元だよ」〉
結局、警察は戸惑ったものの最終的には、〈数100万元の被害額が、6040元に下げられた〉という。
趙がこんな不思議な申し出する理由は一つしかない。腐敗官僚としてロックオンされることを避けようと考えたからだ。
事実、趙の人となりは2013年8月に明らかになる。趙が避けたかった規律検査委員会によって調査の対象となったのだ。それで明らかになったのは、趙にはさまざまな渾名があり、〈「趙中華」、「趙茅台」、「趙三千」と呼ばれていた〉という。その意味は、〈趙は、中華以下のタバコは吸わない。茅台以下の酒は飲まない。3000元以下の宴会には出ない〉ことだという。
今回、問題が明らかになったのは規律検査委員会が趙を調べる上で警察資料にアクセスしたからだという。