「中国の大学で、上海・サンフランシスコ間の海底を2時間で航行できる超音速潜水艦の開発計画が大幅に進み、主要技術が完成した」──。中国情報で定評がある香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」のこのような報道が世界中で大きな話題を呼んでいる。海中で時速5800キロという超音速のスピードを出すことになるため、「そんなバカな」とか、「絶対にできっこない」との否定的な反応が目立った。
しかし、この記事を中国の報道機関のなかで最も権威がある国営新華社通信が発行する日刊紙「参考消息」や中国共産党機関紙「人民日報」(電子版)も報道、「中国の科学技術の高さ」などと大まじめに報じた。困ったのはサウスチャイナ紙のほうで、初報から4日後に再び同じ話題を取り上げ、研究チームリーダーの教授らの否定的な話をまとめた形で、「実現までには多くの技術的な困難を克服しなければならない」として、事実上の訂正記事を出すお粗末ぶりを演じてしまったのだ。
超音速潜水艦の研究・開発を行っているのは、理系では中国でも最高峰のハルビン工科大学の李教授らのチーム。李教授は潜水艦を大きな空気の幕で覆って『超空洞状態』を作り出し、強力な馬力が出るロケットエンジンを潜水艦の後部に取り付ければ、水の抵抗が軽減され、これまで以上の高速度で海中を航行できるとした。
冷戦時代の旧ソ連軍が研究を重ね、時速370kMものスピードを出せる潜水艦の航行実験を成功させたとの実例を挙げたうえで、「理論上は1万1000km以上ある上海・サンフランシスコ間を2時間で航行できるはずだ」と語るとともに、この超音速潜水艦の開発について、「米国やロシア、イランが現在取り組んでいる」と付け加えた。
この記事は英文だったこともあって、ネットを通じて世界中に拡散し、さまざまな反応が寄せられた。
「そんな速度で航行して、中の人は大丈夫なの?」「本当に実現したら、航空会社はつぶれるね」「日本のアニメの見過ぎなのでは?」などなどだ。
この記事は同紙サイトの閲覧ランキングで、初報から1週間あまり経ってもベスト5位を維持しているほどだ。あまりの反響の大きさに同紙は、李教授にさらに電話取材した記事を掲載。
「理論上はできるが、大きな気泡を発生させ、潜水艦を気泡の中に入れるのは技術的に難しい」などとの李氏のコメントを紹介。そのうえで、同紙記者は「あまりの反響の大きさに、李教授は(この研究についてコメントするのは)控えようとしているようだ」と指摘し、「中国人研究者による科学的な進歩は超音速潜水艦を使った海底旅行を身近にすることになろうが、彼らがそれを現実にするまでには、たくさんの困難な技術的な問題を解決しなければならないのだ」と締めくくっている。