広島市で発生した土砂災害では72人が死亡し、今なお2人が行方不明のままだ。2011年の東日本大震災では大津波が日本を襲った。「自分の家は海や山の近くではないので安全だ」と思う人や、「家を建てるときには海や山の近くは避けよう」と肝に銘じている人も多いだろう。しかし、危険なのは海や山だけではない。
「例えば東京も沼や池を埋めたため地盤が緩い土地は多く、地震によって液状化現象が起きることがあります。また、そうした土地は周囲に比べて低い所に位置しているため、ゲリラ豪雨が降れば浸水する可能性があります」(中央不動産鑑定所執行役員・不動産鑑定士の田島洋さん)
では“危険な土地”はどうやって見分ければいいのか。そのヒントが隠されているのが地名だ。
「例えば、『梅』がつくところはもともと『埋め(ウメ)』たという意味で、埋め立てた土地であることが多い。大阪市の『梅田(ウメダ)』はその典型例です。大阪城は目の前がすぐに沼地で敵が攻めづらく、城を建てるのには絶好の立地だったのです。その沼地部分が埋め立てられたのが現在の梅田です」(田島さん)
今回、土砂崩れの被害に遭った地域も、昔の地名から災害が予測できた可能性が高いと田島さんは言う。
「被害に遭った広島県安佐北区、安佐南区は、1920年代の地図を見ると、『上楽地』『迫田』『竹植』といった文字があります。『上楽(じょうらく)』はもともとは『ジャラク』で、水が流れる様子を表す『蛇』だったと推測できます。『迫田(さこた)』の『サコ』は谷間や川で狭まったところという意味ですし、『竹(たけ)』は山地の地崩れ、崖などを指す『タキ』を意味すると考えられます」
そういった災害地名は全国に数多く存在し、災害地名は江戸時代の地震で災害率が普通の土地の約1.5倍だという研究結果もある。
「クラ(『刳る』が転じて、えぐられた土地)」は「倉」「蔵」、「カキ(『欠き』に由来する崩壊地)」が「柿」「鍵」、「タキ(山地の地崩れ、崖を指す)」が「滝」「多喜」「多木」など漢字をパッと見ただけでは危険な意味が込められているとは想像しづらいものが多い。
また、「サク(引き裂く。豪雨で崩れやすい)」は「桜」、「アサヒ(地下水が浅いところ)」は「旭」「朝日」、「ツル(水を意味するので水が流れる場所)」は「鶴」のように、イメージの良い漢字が当てられることもある。
「このように当て字によって本来の意味と全く違っていることがあるので、調べるときは漢字よりも読みから推測しましょう」(田島さん)
近年は地理的背景や歴史的経緯とは関係なくつけられた地名が多くなっており、「ニュータウンには要注意」というのは測量士で『地名は災害を警告する』(技術評論社刊)著者の遠藤宏之さんだ。
「新興住宅地には○○丘や、○○台という地名がついていることが多いですが、これは“イメージ地名”といって住宅を売るためにつけた名前です。必ずしも丘の上にあるという意味ではありません。また、新しくつけられた名前には『日の出』『寿』『緑』など縁起や印象がいいものが多いですが、それが安全を意味するわけではありません。実際に、東日本大震災の際に液状化した地域には『日の出』とついている場所が複数ありました。昔の地名まで遡って調べたほうがいいでしょう」(遠藤さん)
その理由について遠藤さんはこう指摘する。
「古代には地名をつけるときには目印になるものを名前にしたので、地形を表しているケースが多い。そのため、昔の地名から災害の可能性を読み解くことができるのです」(遠藤さん)
地名には先人からの“危険”のメッセージが込められているのだ。
※女性セブン2014年9月25日号