8月5日、6日にわたって掲載された朝日新聞の慰安婦虚報への対応を憂う朝日OBも少なからず存在する。朝日新聞に40年勤務し最後は研修所長を務めた本郷美則氏と、著書『朝日新聞元ソウル特派員が見た「慰安婦虚報」の真実』(小学館)が発売即重版となり話題を呼ぶジャーナリスト・前川惠司氏が、朝日の記事は検証になっていないと語り合った。
──朝日OBとして慰安婦報道の一連の検証・訂正記事をどう読んだか。
本郷:最初にこれだけは絶対に申し上げたいことがあります。朝日に身を置いてきた者として、まず読者の皆さんに深くお詫びしたい。
慰安婦報道をリードしてきたのは朝日です。その報道が嘘だったと認めたのだから、社として謝罪するのが当然。しかるべき要職にある者はクビを差し出さなきゃいけない。それをしていないのは読者への礼儀を欠いている。
前川:あの特集記事を読んで感じたのは、問題を指摘された記事を「点検」したのであって、慰安婦報道全体の「検証」をしたのではないということです。
「女性としての尊厳が傷つけられたことが問題」であることは誰も否定しない。焦点は、朝日が吉田清治氏の「創作」だった証言を裏付け取材もせずに何度も報じたことで日韓関係に深い亀裂が生まれ、国際社会での日本の名誉が貶められたことです。その大きな流れの検証がありません。
前川:吉田証言を取り上げた16本の記事を削除するとしていますが、その16本がいつのどの記事なのか明示されていません。訂正記事の体裁を満たしていないのです。縮刷版でどの記事なのか探そうとしてもわからないです。
本郷:20年以上前から専門家が吉田証言は虚偽だと指摘してきたのに、まともに取り合おうとせず、今も真摯に向き合っていない。驕りであり、それが批判を招いている。
前川:“続報”として出た8月28日付の「慰安婦問題核心は変わらず」との見出しの記事では、吉田証言は河野談話の根拠になっていないとあります。それはその通りです。ただし、朝日が吉田証言を何度も引用するなどして、「慰安婦狩り」や「軍による強制連行」といった話にリアリティをもたらし、河野談話を出さざるを得ない状況を招いたかどうかの検証はない記事でした。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号