慰安婦虚報への対応があまりにひどいと批判されている朝日新聞。このままでよいはずがないと、現場記者たちにジャーナリズム精神を説く立場にあった本郷美則氏(元研修所長)と、著書『朝日新聞元ソウル特派員が見た「慰安婦虚報」の真実』(小学館)が発売即重版となり話題を呼ぶジャーナリスト・前川惠司氏は、かつての朝日に存在した気骨やバランス感覚について語り合った。
本郷:実は、私の編集採用同期には本多勝一(ジャーナリスト)や筑紫哲也(ジャーナリスト、故人)がいる。
前川:みんな同期ですか。
本郷:ええ。私は社会部からスペインに留学して、その後、整理部に回されました。ある時、ホンカツ(本多勝一)が靖国問題を取り上げたコラムが整理部に上がってきて、「靖国に祀られた人たちは犬死にだ」とあった。それは英霊への侮辱だと原稿を編集局長に届けたんです。
当時、彼は評判の売れっ子記者になっていて、社としても売り出そうという魂胆があったと思う。だから私の訴えは無視されると思ったんですが、編集局長は「こんなものは載せられるか」とボツにした。
前川:当時の編集局長はどなたですか?
本郷:田代喜久雄さん(元専務取締役、1993年死去)です。当時はそうしたバランス感覚を持った人もちゃんといましたし、気骨あるジャーナリストもたくさんいたと思います。
だから私は研修所長として後進の指導にあたった際に、先輩たちに恥じることのないようにしつこくいったのは、「どの職場にあっても公正であれ」ということでした。営業畑であろうと編集畑であろうと、偏った考えで仕事に取り組んではいけないと教えてきたつもりです。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号