急激に円安が進んでいる。8月中旬から1か月ほどで対ドル相場が6円近く下がり、9月19日には1ドル=109円台に突入。実に6年ぶりの円安水準となっている。なぜか。その背景には、安倍晋三首相の周辺が「口先介入」を繰り返したことも影響した可能性がある。
日銀の黒田東彦・総裁は9月4日、金融政策決定会合後の記者会見で、「今の水準から円安になることが、日本経済にとって何か非常に好ましくないとは思っていない」と発言。さらに11日、5か月ぶりに安倍首相と会談した後に、「2%の物価目標の達成が困難になれば、躊躇なく追加の金融緩和などを行なう」と記者団に話した。追加緩和は円安圧力になる。
「日銀総裁(中央銀行総裁)の発言は国際的にも大きな影響力がある。為替を円安に誘導する意図があったのは間違いない」(小幡績・慶應義塾大学大学院准教授)
この安倍-黒田会談は市場関係者の間で「円安誘導会談だった」と受け止められている。安倍首相の経済政策ブレーンたちも9月に入って続々と「口先」を使った。
内閣官房参与の浜田宏一・米イェール大学名誉教授は「ブルームバーグ」のインタビューで、「円安はさらに進みそうに見受けられる」との見通しを示した上で「円安は企業収益、設備投資、税収、雇用を押し上げる」と述べた。
同じく内閣官房参与である本田悦朗・静岡県立大学教授も「ウォール・ストリート・ジャーナル」に、「今の水準は全く問題ないし、もう少し円安でも全然構わない」と答えた。新聞やアナリストはもっともらしい理由をつけるが、今回の円安の動きは間違いなく「口先介入」によって演出されたものだ。
安倍政権が円安にしたい目的は、株価を上げたいという一点に尽きる。為替相場が円安に動けば、過去の経験上、株高が期待できると考えているのだ。この間の日経平均株価は、円安の進行に歩調を合わせるようにじりじりと上昇したことで安倍氏の機嫌は上々なのだという。
※週刊ポスト2014年10月3日号