大手エステティックサロン「たかの友梨ビューティークリニック」の女性従業員が、職場の待遇改善を訴えたところ、「労働基準法にぴったりそぐったら絶対成り立たない」「あなた会社つぶしてもいいの?」などと言われ、その音声データを暴露して波紋を呼んでいる。パワハラの立証として隠し録りされた音声記録に証拠価値はあるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
職場で上司による言葉のパワハラに遭っています。労働局に訴える準備として、私に対する上司の暴言をこっそりボイスレコーダーで録っておくのは問題ないですか。また、相手の了承を得ずにレコーダーを使用しても裁判では有効ではないと聞いたことがあるのですが、それも本当でしょうか。
【回答】
隠し録りは、紳士的でない場合もありますが、この場合はやむを得ないことでしょう。ご指摘のパワハラは、いくら文章で書いても実感してもらうのは至難です。その点、録音は臨場感があり、事実そのものですから効果的です。
次に、隠し録りの録音データが裁判で使えないかというと、そんなことはありません。録音データなどは、裁判では準文書として、文書に準じる扱いを受けます。録音データを証拠として裁判所に提出する意味は、録音されている会話などの内容や状況を裁判所に認識してもらうことにあります。そのため、その証拠調べは法廷で再生して聞いてもらいますが、他に録音起こしを作って文書として提出したりもします。
この隠し録りの録音データが証拠として認められるかの問題は、証拠能力の議論です。厳格かつ詳細な証拠収集のルールが定められている刑事裁判と違い、民事裁判を律する民事訴訟法には、そもそも証拠能力について規定する条文はありません。すなわち制限が定められていないということになります。
そこで原則として、裁判所は当事者が提出する証拠は、事件と無関係なものは別として、基本的にすべてを受け入れて証拠調べを行ない、あとは信用できるかどうか、要は証明力の問題としてとらえています。証拠価値の有無は判断されますが、証拠として、おおよそ調べてもらえないということはないのです。
隠し録りした録音データも、先に述べた方法で証拠として調べてもらえます。ただし、いちじるしく反社会的な手段を使って無理やり話させるなど、録音自体が精神的・肉体的自由を拘束し、人権を侵害する方法でなされた場合には、証拠も違法と評価されて証拠調べの対象になりません。そのようなことがなければ大丈夫です。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年10月3日号